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最適解だった。

作者: 境木絢人

私たちはあと1回砂時計が落ちたらサヨナラだ。砂時計ふたつ分はあっという間だった。


「はぁ、はぁ…」


「アメジスト、大丈夫?」


「大丈夫だよ、オパール」


「おーい、早く行くぞ」


「わかったからそう急かすなよ、ペリドット。この体力オバケめ」


「ごめん、2人とも」


「「いいよ」」


こうなったのはいつからだったろうか。オパールもペリドットも始めはアメジストよりも歩くのが下手だったのに。込み上げる劣等感や傷だらけの自尊心を嚥下して、アメジストは笑顔をつくる。


「今日はここら辺までにしようか。それじゃ」


ペリドットの指示に従い、各々今夜の拠点で休みに着く。ともにあるく仲間とはいえ、夜はそれぞれで過ごすものだ。


アメジストはいつも星空をぼんやり見上げるだけだ。時折、オパールの小説を借りて読むこともある。


オパールは大抵、小説を読み耽っている。物語の世界観に心酔しているようだった。


ペリドットはトレーニングをする。そのちからはトレーニングの成果と言えるだろう。


小さなため息が夜空に消えていく。アメジストには目指すものがなかった。もうそろそろ次の道を決めないといけないのはわかっていたけれど、どうにも決めきれなくて。


ペリドットみたいに努力を積み重ねていれば、オパールのように見識が広ければ、何か違ったのかもしれない。そう思うたび、アメジストは心に爪をたてたい気持ちに駆られた。




「私は、揺れる小さな歯車の修理がしたい」


「どうしたの、急に」


「それがペリドットの夢?」


「うん。オパールは?」


「私は西の方のカレンダーに興味があるけど、まだ決めてない。アメジストは?」


「私は………わからない。手探りで探してるけど何処にも見当たらなくて」


「「いつかみつかるよ」」


「ありがとう」



翌朝、アメジストの姿が消えた。別に珍しいことじゃない、ただ彼女も脱落しただけ。ペリドットとオパールはまた歩き始めた。





「ここは……」


一方、アメジストは踊り場にいた。昨日までとは目に映る景色が違うので、荷物から双眼鏡を取り出す。覗き込んで見ても何も映らない。


「一体、私は何処を目指したら…………」


しばらく考え込んでも結論は出なかったので、寝転んでみる。ここでは朝も夜も曖昧だからわからないが、ずっと寝ていなかった。


上の方に、微かに細い線が見えた。目を凝らしてみると、少し前までペリドットやオパールと共に歩いていた道のりだった。


アメジストは自分が今まで気にもしてこなかった「落第者」になったことを知った。きっとペリドットたちも、自分のことは気にもせず歩いていくのだろう。


「……歩かないと」


「あら、休んでいればいいのに」


ふと、声がした。彼女はクォーツといって、アメジストより少し前に落第した者だった。


「あなた、とっても疲れてるから。ちょっとくらい休んでもいいんじゃなくて?」


「だめだよ、歩かないと」


「バカ真面目ねぇ」


「なっ……なんだと!」


「まぁそう怒らないの。あなたにはまだ歩く道のりも見えてないのに、何処を歩くというの」


「クォーツには、見えてるのか?」


唇を噛んだアメジストにクォーツが燭台を手渡す。


「これをあげるわ。ここは少し暗いから、道のりが見えにくいだけよ。探せばあるの。それと諦めるのは簡単よ、飛び降りるだけだもの」


「諦める……」


「ふふ、決めるのはあなたよ。ただ、その蝋燭が燃え尽きるまでには決めた方がいいわ」


そう言って去っていったクォーツを見送ると、早速あたりを照らしてみる。


今まで双眼鏡では何も見えなかったのも当然だ、広がっていたのは黒い景色ではなく暗い景色だったのだから。


幾つかの道のりを見つけた。それは上り坂のものも、下り坂のものもあった。しかしどれも肝心の行き先までは見えなかった。


飛び降りた先も、同様に見えなかった。けれど、目を合わせれば飲み込まれそうな程の深淵がそこに在ることはわかっていた。





いくら時が過ぎたかはわからないが、蝋燭の長さは当初の1/2になっていた。


「もう十分休んだ。そろそろ、本当に決めないと」


正解かはわからないけれど、最適だと思った道を選んで足を踏み出す。いつかこの選択をして良かったと思えると信じてゆっくりと進む。


歩くのは久しぶりだったから前よりも更に疲れても、休みつつ、確実に前に進む。


曖昧だった時の流れも目に見えるように、重かった足取りも少しずつ軽やかになって、疲れ切った心も潤ってきた。


「私は、星雲の計画をしたいな」


かつて即答できなかった夢も胸に抱いて歩いていく。


「広いな、この世界は。もしかして、私が落ちたのはそれを知る為だったのかもな」


その答えに辿り着けたなら、きっとそれがあなたの、

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