第6章 2.剣舞と剣技
「余興とはこれか?」
案内された部屋は今までの部屋とは違い、家具などが一切なく舞台のような一段高くなった場所が真ん中にあり、その回りに椅子が置いてあった。
ただ、今その舞台の上には綺麗に着飾った男女が数人。手には大小様々な剣をそれぞれが持っている。
「はい、東刃で有名な剣舞の一団を連れて参りました。義姉上、お好きでしたよね。」
昔の話だ。隆盛たちと東刃に行った時に見た剣舞が気に入って、隆盛に無理言って羅芯に何度か呼んだことがあった。
その頃の一団ではないようだが、二人の王が来ても取り乱す様子はない辺りから、かなりの場数をこなしていることが分かる。
「ああ、相当に久しいな。これは楽しみだ。」
雪華の期待に応えるように気合いを入れる踊り子たち。
演奏が始まればそれぞれが剣を構えて舞う。それは美しく儚げであったり楽しげであったりと、色々な表情を見せる。奏者との息もぴったりでそれは鳥肌が立つほどだった。
剣舞で使用される剣は本物のことが多い。その方が臨場感が生まれてより客を楽しませるのだ。刃と刃が擦れる音が演奏と合間ってさらに盛り上げる。
あっという間に時が流れた。惚けていると踊り子たちが恭しく礼をする。慣れているとはいえ緊張していたのだろう、終わった後に見せた彼らの笑顔は最初よりも輝いていた。
「私も剣舞を少々習ったのですよ。」
そう言ったのは踊り子たちがいなくなった後。秀磊の言葉に雪は目を丸くした。
「それは驚きだな。」
「剣舞の美しさに魅了されまして…せっかくなのでお見せしても?」
「ああ。」
「演奏はありませんが」
抜刀の許可を得た秀磊はそう付け加えてから、腰に吊っていた剣を抜く。
「秀磊、これはなんの真似だ。」
雪がそう言ったのは、秀磊の剣舞がつたなかったからではない。剣先を雪華に向けたからだ。
殺気は一切感じられなかった。いや、今も殺気は感じないなと、雪は思う。
それは翠も李珀も同じだったようで、驚き見開かれた目がそう物語っている。主を人質に取られては彼らも動けない。
「さあ…」
惚けるような声に、雪は目の前の男を睨み付ける。もちろんそれに怯むことはなく、彼は薄く笑っている。
雪は一つため息をついた。それは乱れた心を整えるための深呼吸であり、気合いを入れるためのものでもある。
キンッ!
雪は左の手の甲で突きつけられた剣を払い、立ち上がり飛び退いて間合いを取る。
翠と李珀が助けに入ると思ったが来なかった。不思議に思って横目でそちらを見れば、隠密が彼らを牽制していた。驚いたことにそのうちの一人は、前に捕らえて逃げ出された隠密だったことだ。どうやら自害したのは雪の肩を刺した方だったようだ。その隠密は今、李珀に刃を向けていた。
仕方がないと雪は秀磊を警戒しつつ、剣を抜いて左手に持ち構える。
「フフ、本気ですね。」
剣の師匠である秀磊はもちろん雪の利き腕を知っている。右肩を負傷しているのも確かにそうだが、彼は強いのだ。利き腕で挑んでも勝てるかどうか…
嫌な汗が額から流れ落ちる。心臓の音がうるさくて冷静さを欠いていると、再び小さく長い息を吐いて雪は心落ち着かせた。
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