第4章 学舎と子供
更新:2021.10.20
「汚いところだけど、適当に寛いでね。」
「ありがとう。」
案内されたのは、広い部屋。机が並んでおり、普段そこに子どもたちが座って色んな事を教わっているのだろう。使いふるされた机は、傷だらけで何だか重みを感じる。
子供たちは、別の部屋で待たせていると珉玉は言う。子供たちに聞かれたくない話しもあるかと、考えてくれたのだろう。そう言う気配りできるところが、学舎の長らしいなと思う。
「白斗たちが元気になって良かったわ。」
「ああ、私もホッとしたところだよ。」
雪が前に会った時は、親と別れたばかりで、表情がなく心配だったが、今日は元気いっぱいの姿を見れて安心した。きっと、気持ちに整理がついたのだろう。
彼らの親は戦に捲き込まれて、亡くなったのだ。一年程前に起きた、羅芯での謀反。隆盛のやり方に反対する保守派が起こしたもので、羅芯の民が捲き込まれたのだ。
首謀者は羅芯の勅任官だった丹歩。隆盛のやり方が気に入らず対立が多かったのだが、保守派を集めて反旗を翻したのだった。
内乱は数日に渡り続いたのだが、丹歩の死によって幕は閉じた。
戦が激しくなる中で運悪く馬に矢が当たって、暴れた馬に振り落とされて死んだと言う。打ち所が悪かったらしい。
人が死ぬことは好きではないし、戦も嫌いだ。何故戦にしなければ事を解決できないのか、雪は疑問でしかたがなかった。別に隆盛は、悪いことをしている訳ではない。昔からの悪い風習を、取り除いているだけなのだ。
ただ、それを良く思わないものは確かに多い。彼は命を狙われることも多く、何度か怪我をして帰って来たとこもあった。
今回の件は、本当に事が大きくなりすぎたと雪ですら感じている。だからどういう形でも、収まったことは良いことだと雪は感じていた。
「雪はどう?」
「えっ?」
考え込んでいて、すっかり珉玉の事を忘れかけていた雪はハッと我に返る。
「変わったことは…」
そう言って珉玉は翠を見る。
「そう、聞いて珉玉!私、弟ができたのよ!」
不満そうな翠を無視して雪は続ける。
「翠って言うの。東刃の槍郡から来たのよ。」
「…槍郡…」
「珉玉?」
「えっ?あ、ああ、聞いたことない名前だなって思ったの。」
「そうよね。他国の事だもん。仕方ないよ。」
「もっと、学ばなきゃいけないわね。」
そう言って恥ずかしそうに、頭をかく珉玉の手は荒れていた。よく見れば、目元にも隈が出来ている。
日々、子供たちの世話に追われながらも、夜、子供たちが寝静まったあとに勉強をしているのだろう。
基本、彼女も教える側の人間なのだ。他にも先生はいるが、負けたくないのだろう。彼女のそういう所が、雪にとって憧れであり彼女を好きな理由だった。
「学舎は順調?」
「ええ。かなりたくさんの子どもたちが学びに来てるよ。この部屋が埋まるくらい人が集まる日もあって、昔じゃ考えられないくらいだよ。」
「そうなのね。それはすごいわ。」
そう言って見渡す部屋は、つくりが荒くてすきま風が入ってくる。雨が降れば雨漏りもしそうだなと感じた。
珉玉は不便に感じてはいないのだろうか?隆盛に言えば支援も可能なはずなのにと、雪は少しだけ疑問に感じた。
「珉玉、隆盛からの支援金は送られてないの?」
「えっ?あ、ああ、いや、家を直すお金はあるんだけど、うちの子たち元気だろ?またどうせすぐ壊されるって思うとね…他のことを優先させてるんだ。」
「なるほど。他って食事とかってこと?」
「うーん、それもあるけど、教材とかかなぁ。本を買ったり生徒の紙や筆を買ったりとか…まぁ、本や紙は高価だからね。」
「何か必要な本があれば、隆盛に頼んで揃えてもらうよ。何が必要?」
「えっ?だ、大丈夫だよ。」
「でも、何かあれば用意するよ。遠慮なく言って。」
「い、いいよ。気にしないで。いつまでも頼る訳にはいかなし、私たちは何とかやってるからさ。」
本来なら国の手を離れて経営できるなら、その方が良いし、珉玉の考え方は間違っていない。でも、雪は何だか寂しい気持ちになっていた。
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