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序章

更新:2022.10.18

「──王になれ。」


 抑揚のない声。


「──無理だよ。私には…」


 冷たく放たれた言葉に少女が弱々しく答えると、うずくまった少女の前に佇む少年は、視線だけその少女に向ける。その黄金の瞳は鋭利な刃物のように、少女へと突き刺さった。

 そのせいで、少女はますます自信を失い、落ち込んでいく。そんな少女の心境を表すかのように、2人だけしかいない部屋は薄暗く寂しい。寝台や最低限の家具が置かれているだけの、質素な部屋には灯りがなく、窓から入る僅かな光で何とかお互いの顔が見える程度だった。それが余計に不安を掻き立てるので、少女はその不安と寂寥(せきりょう)の思いに潰されないよう、細く色白の腕で膝を抱いた。


「──どうして、私にできると思うの?」

 

 少女は膝に顔を押し当てると、無情な現実から逃げるように殻に籠る。唇が「…無理だよ。」と僅かに動くがほとんど音にはならなかった。


「強くなれ。」


 少女の言葉が届いたのか、少年はそれだけを言葉にした。それは励ましのつもりだったのかもしれないが、淡々とした言葉は余計に少女を不安にさせる。その不安から逃げ出すように、少女はさらにギュッと腕に力を込めた。幼い子供のように聞きたくないと耳を塞いで、全ての現実から逃れようとする。

 それを見下ろす少年は眉ひとつ動かすことなく、少女を静かに見ている。だけどそれは、どこか困っているようにも見えなくもない。

 少しの沈黙。うずくまる少女に、立ち尽くす少年。時間が止まったかと思える程にどちらも動かず、静まり返っていた。それを破ったのは少年で、衣擦れの音で少女は少年が自分に目線に合わせるために片膝をついたと分かる。

 少しだけ顔を動かして視線を少年に向けた。


「演じろ。」


 やはり温度を感じない少年の声だったが、思うところがあって顔を上げる。


「演じる…?」


 少女の疑問に少年は静かに頷くだけで、それ以上は何も言ってくれない。少年の表情から、その考えを読み取るのは難しく、少女には到底無理なことだった。

 少年の言葉は何の解決にもならず、少女は"なぜこうなった?"という疑問と、裏切られたという気持ちで再び心が押し潰されそうになる。少年に疑問の答えを求めるが、少年は無表情のままで何も答えてはくれそうにない。

 静かな時間だけが流れた。


 しばらくして、少女は諦めたように窓の外へと視線を移す。そこに映る景色を眺めながらため息をついた。それは心を押し潰そうとするものを、追い出すための行動だったかもしれない。そんな少女の吐息は白く広がり、真っ白な世界に溶けて消えてしまった。

 窓の外から見える雪に埋もれた街を、おとぎ話の雪華と同じ名を持つ少女は不安げな瞳でただ見下ろすのだった。


お読み頂きありがとうございます。

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