2幕 序章
更新:2021.10.20
第2部スタートです。
雨が窓を打つ音。外を見れば、まだ昼だと言うのに薄暗くて、遠くの景色を雲が覆い隠している。羅芯ではここ最近、ずっとこんな天気が続いている。
どうやら雨季が来たようだ。と、思えば雪は重いため息をついた。
この海羅島では四季があり、寒い時期から暑い時期に変わるときに雨季が来るのだ。
たまにの雨なら天の恵みだと思うが、こう降り続けるとさすがに嫌にもなってくるものだ。雨は作物を育てるのに必要なものだが、ものには限度がある。と、雪は思う。田畑も水が多すぎては育ちも悪くなるのだ。
それにと、雪は自分の髪を撫でた。雨が降り続けているせいで髪は思い通りにならないし、曇り空ばかりで心もモヤがかかったように憂鬱な気持ちになるのだ。外にも出掛けられず、閉じ籠るしかない。それは雪にとって退屈でしかない。
もちろん、羅芯の王としてやることはあるのだが、そのやる気が起きないのだ。困ったものだと自分でも思う。
いつもなら綾にお尻を叩かれながら仕事をしているが、今日は綾も忙しくしていて誰も雪のやる気を起こしてくれない。こんなに怠けていても咎める者すらいないのだ。
雪はあまり雨が好きではない。先程述べた理由もそうだが、それ以外にも理由がある。疫病の蔓延だ。暖かい時期に雨で湿度が上がると、病が至る所で流行りだす。島国である海羅島での疫病蔓延は致命的だった。対策をしなければあっという間に、病は広がってしまうのだ。
だから海羅島では、不明の病が出ると辺り一帯の外出を禁じる。病を蔓延させないためだ。
基本的には蓄えた食糧で生活するが、必要なものがあれば、支給される紙に書いて兵士に注文する。
兵士が家に入らずに済むよう、注文書は戸の前や窓に貼り出す。見回りの兵士がそれを見て、食糧蔵や国庫から必要なものを届けるという仕組みだ。もちろんお金は国が払う。そのための税金だ。
ちなみにこの海羅島、驚くことに字を書けない大人はいない。書けないのは幼い子くらいだ。
それだけ教育が行き届いているということだ。
国が補助をして、子どもが無償で学べる環境を整えている。これは隆盛が定めた制度だった。
話は戻るが、疫病が蔓延してる間、外出は一切許されない。もし、家を出ようものなら矢で射殺されるのだ。そこは容赦ないと思う。
辛いのは一人が感染していれば、一家は滅亡してしまうということだ。だけど薬の発達が見込めないこの島では、この方法しかない。
もし一家滅亡を阻止したいなら、家を二つ持つなどして住む場所を分ける方法もある。そういう時のために、空家を貸し出す家主もいるくらいだ。
疫病の蔓延から一定の期間隔離された後、生きている場合には家から出られる。もし全滅している場合には、家から人は出てこない。すると、兵士は家ごと燃やすのだ。これが一番、疫病が蔓延しない方法だった。
たまに一人だけ生き残っている場合があるのだが、そういうときはその者だけ、さらに隔離してしばらく様子を見る。感染していればいずれ発症するし、感染していなければ新しい家を与えられそこで新たな生活を送れる。
昔、隆盛がまだ王だった頃にも、疫病が流行ったことがある。東刃の槍郡という街だった。大きな街ではなかったため、被害はそこまで大きくはならなかったと聞いている。
そんなことを思いながら、雪は止まない雨に目を向ければ、自分の座る少し後ろに立って控えていた翠の姿がガラスに反射する。
そう言えば、翠と出会ったのもその頃だったなぁ。と、思い彼を見れば、冷めた視線が返ってくる。
あの頃はもっと可愛げがあったのに、あの可愛らしい翠は何処へ行ってしまったのか。などと考えれば翠が僅かに目を細める。
その瞳は書類を見なくて良いのかと、責めているように見える。
そんな翠の視線に負けた雪は諦めて机に座り直すと、山積みになった書類を見てため息をついたのだった。
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