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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
Dual nature
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噂の真相/4

 他の配偶者たちも気にした様子もなく、話は再開する。颯茄はラムネを飲み込んで、


「案はあってモデルも決まっていて、書いていなかっただけです」


 そうそう使い回しはないのである。妻が得意げに言った隣で、燿はテーブルに肘をつけて、葉巻をジェットライターで炙る。


「誰がモデルだったの?」

「私と知礼の役はなかったんです」


 ラブストーリーにわざと変えたのだ。孔明はテーブルの上に突っ伏して、大きく伸びをする。


「月は〜?」


 颯茄は急に口ごもった。


「これも恐れ多いんですが……」

「また陛下つながりってか?」


 青白い煙を吐き出した明引呼の顔を、颯茄は耀を間に挟んでのぞき込む。


「はい」


 いつの間にかテーブルに置いてあった灰皿に、ミニシガリロの柔らかな灰を、光命はトントンと叩き落とす。


「どなたですか?」

「陛下の大人になっている息子さんです」


 全員の頭の中で、SPに常に囲まれている、十八歳の青年ふたりだけに照準が絞られた。


「どっち?」


 颯茄は左斜め前に座っている、鋭利なスミレ色の瞳と冷静な水色の瞳を順番に見た。


「蓮と光さんの同僚の人です」


 音楽事務所が一緒のアーティスト。帝国では有名人である。夫たちが全員納得の声を上げる。


「あぁ、あの人ね」


 頭の中のイメージがぴったりとあったところで、颯茄はスラスラといつもより長々と話し出した。


「メタルなどの音楽をやっている人なんですが、非常に個性的で、自分で新しい言葉を作って話すような人です。女装をすることはないんですが、してもおかしくない雰囲気を持ってます。ふんわりしていて子供みたいな時と、策略をしてくる二面性のある人です。それなので、二重人格という設定にしてみました。女装をするシーンがあったので、月さんを抜擢ということです」


 男子高校生ふたりの物語――Dual natureは。蓮の超不機嫌な声が俺は知っているが聞いてやるという勢いで、質問してきた。


「孔明の役は誰だ?」

「むふふふ……」


 颯茄は急にニヤニヤし出した。目を閉じて、椅子の上で嵐に揺られた船のマストのようにグラグラと揺れ始める。蓮以外誰も知らない。夫たちは不思議そうな顔をする。


「何で笑ってるんだ?」


 十分間を置いた颯茄はまぶたを開け、みんなを見渡し、ドラムロールが心の中で鳴り続けていたが、


 シャーン!


 とシンバルが鳴ったと同時に、


菖蒲あやめです」


 これは、明智分家の宴である。他人からしたら、今のもたつかせた間は意味不明なのだった。だがしかし、夫たちはわかっていて少しだけ微笑む。


「あぁ、そうか」


 全員の脳裏に浮かぶ。背中の半分までの黒髪で、前髪はまぶたの上でパツンと一直線に切られていて、雅という言葉がよく似合う人物が。


「お前の五歳の弟ね」

「はい、本家にいるみなさんの義弟おとうとです」


 義理の弟が婿に転じたということである。隣の敷地に住んではいるが、結婚式以来会っていない子供。それでも、孔明の精巧な頭脳には、言動がすべて記憶されている。


「ボクと彼、似てたかなぁ〜?」


 しかし、たくさんの子供を見てきた、小学校教諭――月命は見解を異にした。


「僕は似ているところがあると思いますよ〜」


 同じ黒の長い髪を持つ弟と婿を颯茄は脳裏の中で並べる。


「菖蒲は肝が座ってるという言葉がよく合います。孔明さんは違いますけど、感情に左右されないですよね?」

「そうかも〜?」


 孔明に落ち着きはない。天地がひっくり返っても微塵もない。その代わりに、冷静さを持っている。


「それから、孔明さんよく怒りますよね?」

「そうだったかなあ〜?」


 間延びした返事をする孔明。この夫ときたら、春風みたいにふんわりと微笑んで日常を楽しく乗りこてゆくのに、たまに頭にきている時があるのである。大先生も人間なのだなと、颯茄は思ったものだ。


「菖蒲も怒るんです。それが、何かとてつもなくまずいことをしたのかと思わせられるような、重みのある叱りなんです」


 天からの逆鱗げきりんに触れたような気持ちになる、姉であった。ミニシガリロを吸い始めた雅威が、柔らかげに話す。


「父上に似たんじゃないのか?」


 あの雅な子供が怒ったところを思い浮かべると、夫たちは全員納得した。


「お父上の叱りに似ている」


 畳の上に正座させられ、説教される婿たち。颯茄の中で、隣家にいる父親と弟の面影を重ねる。


「確かに。帝河ひゅーがといつも一緒に菖蒲に叱られてた……」


 あの弟ときたら、月命といい勝負なくらい、怖いのである。


 帝河は別の弟で、この姉弟あねおとうとコンビはどこまでも前のめりで、ギャグというキャッチボールをハイテンションで投げ返すような言動なのである。そして、羽目をはずすと、菖蒲に叱られるという日々を送ってきたのだった。


 夫たちは容易にその姿が思い浮かんで、笑い声を上げた。


「あはははっ……!」

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