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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
翡翠の姫
891/962

結果は十人十色/4

 だが、それっきり誰からも反応がなく、颯茄はかすかに残っている昔の記憶を紐解いた。


「あれ? 他に知ってる人いないんですか?」


 その時だった。パタンと食堂のドアがまた開いたのは。だが、開けた人は見えておらず、颯茄のどこかずれている瞳は、焉貴、孔明、光命、蓮を通り過ぎて、月命にたどり着いた。


 マゼンダ色の長い髪は少しだけかがみ、テーブルの上にどこから持ってきたのか手紙を置いた。


「僕は十五年前に初めてお会いして、知っていますよ〜」

「僕もお話ししたことがあります」

「オレも少しだけあんな」


 貴増参と明引呼が答えると、ドアは誰も触っていないのに、パタンとまたしまった。手紙はとりあえず置いておいて、颯茄はもともと主役のモデルだった人の話をする。


「政治学の研究者の方で、奥さんが研究所に迎えに行かないと、家に帰ってこないほど、研究熱心だというところから、こんな話になりました」


 研究者魂という言葉がぴったりの男の話に、夫たちはあきれたため息をついた。


「本物の研究バカだ」


 我が家にいないタイプである。修業バカはいても、アカデミックなバカはいない。


「アッキーの役は?」


 教授室のドアを蹴り破り、主人公に忠告する役。颯茄は本当に困り、唇を噛みしめた。


「こっちの方がもっと畏れ多いので、言えませんが……。友達が主役ということは、その友達は! ですよ」


 陛下の友達の、友達――


 夫たちは背もたれにもたれかかっていた体を一旦外し、バカな妻のおかげて畏れ多いことがされていることに驚いた。


「そういうこと!」

「その方は女好きではないですよ。ただハーレムなだけです」


 颯茄は物語の設定を懸命に弁明したが、夫たちは控えめに苦笑した。


「…………」

「ただハーレムの結婚をしてるだけです」


 妻はとうとう言ってしまった。誰のことか。しばらく待ってみたが、城の者が明智家を訪ねてくることはなく、高貴な方からのお咎めもなかった。


 袴の袖がジュースを引っかけないよう抑えて、夕霧命は駄菓子に手を伸ばした。


「巫女は誰かモデルはいたのか?」

「いや、いません。それから、知礼さんの役は足したものです」


 ドアをぶち壊したり、巫女を止めなかったり。それは別の人がやれば、変わってしまう。元の作品を知っている颯茄は語る。


「貴増参さんと明引呼さんがモデルになると、こういう話になるということで、細かいところは元の作品とは全然違いますよ」


 こぼしたゼリーをやっと収拾した、独健はティッシュを蓮に戻した。


「書きやすかったのか?」

「そうですね。このふたりって、プロポーズして、されて組じゃないですか?」


 明引呼が貴増参に申し込んで、ふたりきりでデートまで行っているのだ。ラブラブであるのは間違いない。


「そうだな」

「そうね」


 同意を受けて、颯茄は書いている時のことを思い返した。


「だから、いつまでもじゃれ合って、話が続いていってしまうので、逆にストップするところを決めるのが難しいくらいでした」


 妻が必要ないというか、入りづらいくらいだったのだ。漆黒の長い髪は指先でつうっと伸ばされて、さらさらとテーブルの上に短いものから落とされた。


「ギャグはなかったかも〜?」

「時間が決まってるんだろう?」


 独健からの質問に、颯茄はうなずいて、誰が何と言おうとこう言い張った。


「はい。他の作品とそろえてるので、時間が許す限りはギャグを入れるって感じです。一応ラブストーリーなのでね」


 次々に夫たちから疑問の声が上がる。


「これはラブストーリーなのか?」

「キスシーン出てきてないよな?」

「番外編だけだ」

「そっちにラブシーンは負けたな」


 夫たちの言い分に、妻は悔しそうに唇を噛みしめた。あんな綺麗なキスシーンを撮っているなど、聞いていないのである。颯茄は軽く咳払いをして気持ちを入れかる。


「はいはい。それは置いておいて、次はギャグが出てくるか!」

「結局そこなのか!」


 ラブストーリーではなく、ギャグに走る妻だった。食堂のライトがすうっと薄暗くなると、


「さぁ、それでは見ましょう。タイトルは……」


 ちょっとカッコいいが、首をかしげそうになる題名が妻の口から出てきた。


「――Dual nature!」


 だが、語学力に優れている夫たちは全員意味がわかっていて、誰も突っ込まず、空中スクリーンに視線を集中させた。

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