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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
翡翠の姫
889/962

結果は十人十色/2

「この映像を子供たちに月さんが見せるとなると、曲は人の目に触れるわけです。いいと思われれば、あのやり手の社長は機会は逃さないですからね。リリースって話になるかもです」


 颯茄は金平糖こんぺいとうを口の中へ投げ入れた。


「人気商売っていうのは、そういうもんでしょうよ」


 抹茶を堪能していた燿はのんびりと言った。その隣で、雅威が少しだけ微笑む。


「そうだね。この作品が出れば、曲も一緒に聞かれるわけだから、人気が出る可能性は大だからね」


 甘いミルクショコラで汚れた唇を、ティッシュで綺麗に拭き取った蓮が左隣に座る紺の長い髪の人の心配をする、同じアーティストとして。


「光はクラシックばかりだったが、ポップスは作れるのか?」

「曲はたくさん聞くようにはしていますよ」


 光命の脳裏という楽譜には、一度聴いた曲は全ての音が音符となり、記録されている。あとは自身の中で消化して、自分色に染めて発信するだけだ。


 結婚歴の長い颯茄が、他の配偶者が知りもしない話を持ち出した。


「三年前までは、光さんR&Bのリズムもうまく取れなかったぐらいですからね。私が教えました」


 だが、次からおかしな話に変わってしまった。蓮の天使のように綺麗な顔は怒りで歪み、火山噴火ボイスを発して、颯茄をにらんできた。


「お前が余計な曲を聞かせるから、光の腰の動きがおかしくなったんだ」


 光の腰の動き――


 全員からどっと笑い声が上がった。


「あははははっ……!」


 マスカットをシャクっとかじった焉貴が、ナルシスト的に微笑んで、純真無垢のR17を放った。


「セック◯に使っちゃった。R&Bのグルーブ感をね」


 ただの駄菓子のチョコレートを、高級ショコラに変えて、アフタヌーンティーを楽しんでいるみたいな光命本人は相好そうごうを崩した。


 この冷静で優雅な王子さま夫ときたら、遠目で見ていた時と違って、いろいろエロすぎるのである。


 衝撃的すぎて放心状態だった颯茄は、口をぽかんと開けたまましばらく固まっていたが、何とか意識が戻ってきた。


「まさかそこに使うとは思わなかった。まだ結婚したばっかりだったから、そんなスーパーエロだとも知らず……。ついうっかり……」


 ビチャっとゼリーをこぼした独健の元へ、ティッシュの箱がすうっとテーブルの上を横滑りするのではなく、瞬間移動で渡された。


「この、白の巫女だったか? 飛び込む前のシーンは考えさせられるな」


 賛否両論。颯茄は表情を曇らせて、頬杖をつく。


「私もここはさすがに迷ってしまって、わからなくなったんです。主人公がどうするか」

「どうしたの〜?」


 孔明がヨーグルトの小さなつぼを探しているのを斜め前に見ながら、颯茄が必ずと言っていいほどしている解決方法を口にした。


「モデルの人、貴増参さんに聞くのがいいのかなあ〜? とか悩んでたら……」


 本人に聞くのが一番いい。モデルにしているのだから。その人を描いているのだから。だが、恐ろしい問題がそこに潜んでいたのである。


「月さんがちょうどきたんです」


 ちょうどきた――


 勘の鋭い独健はゼリーを拭いていたティッシュをふと止めた。


「それは嫌な予感がするな」


 反対側の端に座っていた月命から、地獄へと引きずりこむような低い声がテーブルの上を左から右へと抜けていった。


「独健は余計なことは言わなくていいんです〜」


 焉貴は両膝を椅子の上で抱える。立っていること以外が苦手なために。


「どうしちゃったの?」

「月さんが、貴増参さんに電話するって言って、かけてくれたんですけど……」


 やはり事件があったようで、颯茄の言葉は途切れた。


「けど〜?」


 孔明が間延びした感じで問いかけると、貴増参本人がにっこり微笑んだ。


「僕の勤務中にかかってきちゃったんです」


 何てことをするんだ、月命はと、颯茄は思ったのである。まだ絶対に庁舎にいる時間帯なのに、何の戸惑いもなく携帯電話は操作され、普通に凛とした澄んだ声は話し出したのだ。


 焉貴、孔明、独健の順に、月命に視線が集中した。


「何? 仕事中にかけてんの? お前」

「月は夏休みだけど、貴増参は仕事でしょ〜?」

「月、お前失敗するの本当に好きだよな」


 一斉にツッコミがやってきたが、地獄の番人と言っても過言ではない、月先生にとっては赤子の手をひねるようなものだった。


「電話に出たんですからいいんです〜。出られないんでしたら出ません〜」


 身をごっそりと落としても、強行突破するという、自虐極まりない夫、月命であった。


 颯茄はきっちり話しても大丈夫か確認をして、話を切り出したのだ。


「で、状況を説明して聞いたんです。そうしたら……」

「えぇ、僕は先ほどのようにしますと答えました」


 貴増参の意思をきっちりと、妻は再現したのであった。そして、颯茄はつい聞いてみたくなった。


「ここで、旦那さまたちに質問です!」


 盛り上がっている妻とは正反対に、夫たちは平常だった。


「何〜?」

「何だ?」

「何ですか?」


 どこかずれているクルミ色の瞳は、イケメンたちを見渡す。


「もし、自分が貴増参さんと同じ立場に立たされたら、どうしますか?」

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