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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
閉鎖病棟の怪
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アドリブと三角関係/4

 夫たちの視線をもろともせず、地鳴りのような低い声を響かせた。


「光が颯のところへ行きたいのなら、俺は見守るだけだ」

「ということで、私と夕霧さんは『譲り合い』の関係です」


 颯茄はにっこり微笑んで、


「光さんをいつも間にして、夕霧さんと私はお互いの距離を測っているんです」


 この絶妙なバランスの至福に、妻は浸った。夕霧命とは反対側の、右端に座っている明引呼が声をしゃがれさせる。


「三人でまとまればいいだろ」


 妻の脳裏にすぐに浮かんだ。


 ――あの紫の月明かりの下。シーツの海の上で、三つの肌色が混じる夜。周波数の違う男の喘ぎ声がふたつもつれ合い、ひしめく……。


 どこかずれているクルミ色の瞳は、いつの間にか閉じられていて、妻の含み笑いが食堂に伝わってゆく。


「むふふふ……」

「どうして、笑ってるんだ?」


 独健の声で我に返ると、孔明が指先で、銀の細いブレスレットをくるくる回していた。


「颯ちゃん、想像しちゃったぁ〜?」

「違います。思い出し笑いです」


 夫たちが声をそろえ、


「もうまとまってた――」


 颯茄は笑うのをやめて、声を張り上げた。


「当たり前じゃないですか! 光さんのセ◯キならできます!」


 明らかになっていないからこそ、妻の言い分は意味不明だった。


 しかし――


 言われた本人が真っ先に瞬発力を発して、細く神経質な手の甲を中性的な唇につけてくすくす笑い出した。そのあとに続いて、夫たち全員が賛同する。


「確かにそうだ」


 妻は思うのだ。光命はバイセクシャルになるために、生まれてきたのだと。素敵な人生だと。


 頬杖をついていた燿は、夕霧命に視線を向けた。


「合気って本気でかけたの〜?」

「そうだ」


 武道家の技をまともに食らった、悪霊役の人々。あんなことになってしまうのだ、合気は。


「エキストラのみなさんは、大丈夫だったんでしょうか?」


 ラムネを歯で砕いた貴増参からの質問に、夕霧命は目を細めた。


「あれは道場の人間だ」

「受け身を知ってる俺っちでも、危ないっすからね」


 張飛の言う通り、触りもしないのに、いきなり宙を投げ飛ばされたら、たまったものではない。颯茄は両手を胸の前で横にフルフルした。


「一般人にかけたら大変です。びっくりしちゃいます!」


 邪悪なヴァイオレットの瞳がまぶたから解放された。


「そのようなことをしたら、法律に触れてしまいます〜」


 みんな仲良くではなくなる。遊びのつもりが、大変なことになってしまう。


「間違いなく、私たち明智分家は陛下の御前ごぜんに呼び出されます」


 城の誰かが訪ねてくるならまだしも、瞬間移動で謁見の間へと連れ去られる可能性大。


 颯茄の話が容易に想像できて、独健は持っていたゼリーを力なくテーブルへ落とした。


「そうしたら、お義父ちちうえにまた、畳の上に全員正座させられるな……」

「はぁ〜……」


 明智の家長に、夫たち全員は撃沈された。ガミガミ怒鳴られるわけではないのだ。ネチネチ言われるのでもない。だが、ボスの言葉はいつも正論で重みがあるのである。


「俺と燿はされたことないが、あの噂は本当だったのか?」

「はい……」


 雅威に聞かれて、颯茄は力なくうなずいた。


 実の娘として正座させられるを常にそばで見てきた颯茄は、夫たちの瞳が輝きをなくしたのを見て取った。


「みんな、へこんでしまった……」

「うふふふふっ……」


 月命の邪悪な含み笑いが聞こえ、彼の罠だったことが今明らかになったのだった。


 明智家へきてまだ日の浅い燿はみかんの皮をむきながら、今も門の前に陣取っているマスコミ各社を思い浮かべた。


「それだけで済めばいいけど、夕方のニュース番組に取り上げられたら、あっという間に帝国中に知れ渡っちゃうんじゃないの?」

「それはそれで、みなさんに多大な迷惑をかける……」


 颯茄はテーブルの上に突っ伏した。陛下が推しているバイセクシャルの複数婚は、人々の間でカリスマ的な扱いを受けていて、商売をやっている夫たちに多大な影響をもたらしていた。注文が殺到しているのだ。陛下が推している人間が作ったものはどんなものなのかと思われて。


 妻はむくっと起き上がって、右手を元気にかかげる。


「注目されているからこそ、悪影響を及ばさないように最大限の努力をしよう!」

「おう!」


 夫婦で決意を新たにすると、颯茄は駄菓子の山を夫それぞれに切り分けた。


「それでは、次に行きましょう! タイトルは……」


 携帯電話を握りしめると同時に、食堂の電気がすうっと薄暗くなり、


「――翡翠の姫!」


 ラブストーリーっぽい題名が響くと、夫たちの目が空中スクリーンに集中した。

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