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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
閉鎖病棟の怪
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アドリブと三角関係/3

 細く神経質な手の甲は中性的な唇につけられ、くすくす笑い出したが、


「えぇ……」


 肩を小刻みに揺らして、それきり何も言わなくなり、いわゆる、光命なりの大爆笑が始まった。


「また笑い出した」


 ホラーだとか、ラブストーリーだとか、散々言っていたのに、フタを開けたら、光命にとってはギャグでしかなかったのだ。


「光さんは知礼さんのボケに弱いんでね。ちょっとでも触れたらダメなんです。前回の撮影の時、大爆笑ばっかりでしたよ」


 颯茄はキャンディーを口の中にぽいっと入れて、先に進もうとした。


「お前が撃沈したんだろう」


 夫たちから抗議が巻き起こったが、著者は再生リストをチラッと見て、


「大丈夫です。光さんの出番はまだきませんから。撃沈したままでも」


 そうやって、光命を置いていこうとする妻。夫たち全員から待ったの声がかかった。


「本人が他の話を楽しめないだろう! これじゃ」


 そうなのだ。知礼は毎回出てくるのである。そのたびに撃沈である。妻は慌てて優雅な王子夫を心配した。


「あぁっ! 光さん、次始まるまでには戻ってきてください」


 そうは言っても、物語が始まったら、また優雅に大爆笑なのである。


 どこかの国の王女さまかと思うようなピンクのドレスを着ている、月命がマゼンダ色の髪を後ろへ払った。


「居酒屋の料理はそんなにおいしかったんですか〜?」

「おいしかったですよね?」


 シャープなあごのラインを見せている夕霧命に、颯茄は同意を求めた。


「うまかった」

「いけてた。本当にどうやって作ってるのか、気になるな」


 最後の居酒屋のシーンももちろんフリートークである。独健は本当に気になっていたのだった。そして、颯茄から知礼のあの言葉が出てくる。


「今度家で取って、みんなで食べましょうか?」


 だがしかし、主導権は妻には回ってこなかった。皇帝みたいな威圧感のある声で、焉貴に持っていかれたのである。


「――二百五人分でね」


 さくっと子供の分まで計算されていた。みんな苦笑する。増え過ぎて大変だと。


 そこで、パタンと食堂のドアが開いたが、すぐにすっと閉まった。訪問者の姿は妻から見えないのに、そんなことが起きていた。


 だが、孔明と光命がキャップを回していないジュースを、テーブルの下へ降ろすと、幼い声が聞こえてきた。


「ありがとう」


 そして、また食堂のドアが開いて、誰も出入りしていないはずなのに、パタンと閉まったのである。


 いつも通りに戻った孔明の瑠璃紺色の瞳に、深緑の短髪とブラウンの長い髪が映っていた。


「夕霧と颯ちゃんが一緒に並んでるの、ボク、初めて見たかも〜?」

「だな。俺も初めて見たぜ」


 もうひとつみかんを駄菓子の山から取り出し、明引呼は同意した。その斜め右前で、独健はゼリーをまた食べ始める。


「そうだな。俺もだ。どうしてだ?」


 戦闘シーンでは、前後に多少ずれていたが、すぐそばにいた。最後の居酒屋のシーンなど、隣の席であった。


 今も左隣にいる夕霧命のそばで、颯茄はこんなことを言われるとは思わなかったので、少し驚いた顔をしていたが、


「え……?」


 何が原因がすぐに気づいた。


「あぁっ、わかった! 光さんがいつも間にいるからです」


 爆笑の渦から無事戻ってきた夫を、颯茄は指差した。即座に、焉貴のまだら模様の声が響く。


「そう。お前と夕霧は光をめぐってのライバルだからね」


 そんなはずはない。バイセクシャルの複数婚の夫婦である。颯茄は腕を下ろして、夕霧命のはしばみ色の瞳に同意を求めた。


「違いますよ。違いますよね?」

「違う」


 深緑の短髪は横へ揺れた。従兄弟同士で結婚をした夫二人の、すれ違った日々を思うと、颯茄はこうしたいのだ。


「光さんが夕霧さんのところに行きたいのなら、私は身を引きます」


 愛する人が幸せになるのなら、それが自分にとっての幸せだ。


「夕霧は?」

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