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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
ラブストーリーをしよう
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前途多難なファンタジー/6

「お前、独健に何したの?」

「いやいや! だから、何もしてないですよ! ただ、他の人がやるはずだった役をお願いしたんです」


 これも昔に書いたのだ。ただ、役どころを入れ替えただけである。惨敗中の颯茄は、鋭いアッシュグレーの眼光に迫った。


「明引呼さんは?」

「野郎どもが何て言うかだな……」


 色よい返事ではなかった。


「お前、アッキーに何してんの?」

「アイテムをひとつ出しただけですよ」


 これは新作なのだ。ただ、ちょっと笑いを取りにいっただけであって、本人が絶対にしないことを入れてしまったのである。


「燿は、どうだったのですか?」


 光命に聞かれて、燿は何気ないふりで言う。


「やったことないことやらされたからねえ」

「お前、燿に何やらせたの?」


 怒りの矛先が向かってきて、颯茄は食べている手を思わずとめた。


「それは、建築家のオフィスラブじゃ、普通すぎるから、ファンタジーを、非日常を演じてもらっただけですよ」


 焉貴はマスカットの香りのする手で、右隣にいる人の腕をトントンと叩いた。


「で、孔明は?」

「ボク〜? ジャンル間違ってたかも〜?」


 断然否定である。


「お前、何やらしたの?」

「いやいや! だから、何もしてないですよ! ただ、他の人がやるはずだった役をお願いしたんです」


 これも昔書いたのだ。ただ、孔明の頭の良さについていけなかった颯茄は、彼をモデルにした作品は持っていなかったのである。


 手厳しい評価を受け続ける颯茄。めげずに、夕霧命を間に挟んだ、左隣にいるカーキ色のくせ毛を持つ夫に問いかけた。


「貴増参さんは?」

「僕は機会があるのなら、またぜひ演じたいです」


 ここも配役が違うが、受け入れてくれる人もいるのである。ふ菓子を綿あめでも食べるようにしている、ニコニコの笑みの人を、颯茄は見た。


「月さんは?」

「僕ですか〜? 衣装を――」

「やめてください〜! そこは内容に触れるので、禁止です」


 失敗すること大好き。危うくネタバレになるところであった。颯茄は隣に座っている姿勢がピンと張りつめた人に問いかけた。


「夕霧さんは?」

「いい修業になった」


 切れ長なはしばみ色の瞳で見下ろされ、妻は身体中が幸せ色に染まる。だが、夫たちから修業バカが告げられた。


「全て、そこへとつなげる……」


 颯茄は気にせず、再びお菓子に手を伸ばす。


「蓮は、どうだった?」


 彼の天使のように綺麗な顔は怒りで一気に歪み、


「お前、俺はあんな言い方は――」

「それも内容に触れるから禁止!」


 危うくネタバレである。颯茄が言ってるそばで、孔明が最後から二人目に顔を向けた。


「焉貴はどう〜?」

「俺? 事務的に終了」


 そこにどんな意味があるのかわからない、アンドロイドみたいな無機質な響き。


「相変わらず感情がない……」


 颯茄は最後の人に話を振る。


「張飛さんは?」

「俺っちは久しぶりに大暴れしたっす」


 せっかくの賛成意見だったが、焉貴がさらっと拾った。


「何それ、ネタバレじゃないの?」

「いやいや、あまり突っ込まないでくださいよ。大人の事情は聞き流してください」


 みんなの感想が終わると、雅威が嬉しそうな顔を向けた。


「なんだか楽しみだな」


 傍らに置いてある携帯電話に、どこかずれているクルミ色の瞳が向けられると、動かしもしていないのに、勝手に起動する。


「波乱も含んでますが、最初の作品にいきましょう! タイトルは……」


 食堂の明かりが意識化センサーで、一気に薄暗くなり、颯茄は意気揚々と言い放った。


「――閉鎖病棟のかい!」


 血のような赤で書かれた、おどろおどろしい文字が画面に浮かび上がった。即行、夫たちから待ったの声がかかり、


「これ、ホラーだろう!」


 明かりがさっと元に戻った。


「違いますよ! ラブストーリーです!」


 颯茄が書いたのだ。本人がそう言えば、そうなのである。再び、日が落ちるようにすっと照明が暗くなり、


「はい、もう一度仕切り直しです。閉鎖病棟の怪、どうぞ!」


 全員の視線が空中スクリーンに集中した――――

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