表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
ベッドに誘って
817/962

大切なことは何:燿の場合

 寝る寸前まではしゃいでいる子供たちは、もう布団中だった。スポットライトのようにシーリングライトを浴びて、まだ酒を飲んでいる颯茄。

 その隣にすうっと、誰かの影が立った。


「颯茄ちゃん、お酒もいいけどほどほどだよ」

「いや〜、飲まずにはいられないっていうか、何というか」


 声の感じからして、燿。颯茄は髪をいじりながら、また一口酒を飲もうとした。だがしかし、そのグラスを、燿に横取りされてしまう。


「ダメ〜、こっちにこようか」


 いつの間にか燿が隣に座っていた。膝を指している。


「膝の上?」

「そう」

「じゃあ、お邪魔して。お酒飲もうかな?」

「颯茄ちゃんはダメ」


 背の高い燿は、両肩取れない位置へグラスを持ち上げた。颯茄はしかめっ面をする。


「え、でも、燿さんはモルト飲んでるじゃないですか?」


 丸氷にモルトのブラウンがよく映えて、宝石のようだった。


「俺は今、仕事が順調で、癒してるからいいの」

「えぇ〜、スランプの私も飲みたい〜」


 颯茄は燿の膝の上で、ジタバタした。


「飲んだから、スランプ解消するの?」


 痛いところをいきなり突かれ、颯茄はしどろもどろになる。


「それは……しないかもしれないですけど……」


 大きな皿がひとつテーブルに現れた。


「おとなしく残した夕飯食べてなさい」

「はい」


 颯茄はフォークでパスタを一巻きする。口へ運び入れると、笑顔に変わった。


「あ、美味しいこのパスタ。お肉がジューシーで」

「でしょ? たまにはきちんと食事摂りなさいな」

「あったかい物は温かいまま、冷たい物は冷たいまま、永遠の世界っていいですね」

「そう。時間はいくらでもある」

「ありますけど、連載止まってしまいそうなんです」


 仕事に期限があるのは、天国でも一緒。


「そうしたら、休めばいいでしょ」

「それもそうなんですけど、担当さんに聞いたら、少しずつ書けばいいんですよ、って言われました」

「俺だって、いつもいいデザインが描ける訳じゃない。期限は大切だけど、一番大切なものを忘れちゃってるね、颯茄ちゃんは」


 空になった皿を見ながら少し考えてから、颯茄は答えを出した。


「心ですか?」

「そう。だから、書けないんじゃない?」

「確かに忘れてました」


 燿は少しだけ微笑んで、颯茄は優しく抱きしめる。


「そう。温泉行こうか?」

「あ、家の中にある温泉ですね」

「そう。じゃあ」


 チャプンと水の跳ねる音がすると同時に、服はなくなり、お湯に浸かっていた。


「はあ、疲れが取れる〜」


 颯茄は両腕をあげて、大きく伸びをする。長い髪が温泉で濡れている燿は、いつにも増して美麗だった。


「長い間、入ってなかったてでしょ?」

「すっかり忘れてました。こんな癒しの場所が家にあることを」

「一点に集中しすぎ」

「そうですね」


 肩を並べて、大きなグレーターが見える紫の月を、二人して眺める。


「愛してる人たちがたくさんいるんだから」

「その愛にも応えなくちゃいけませんね」


 視野が狭くなっていた颯茄は、燿に救われた。燿の声が引っ掛かりのある低いものに変わる。


「だから……」

「ん……」


 夜風を感じながら、二人はキスをした。燿は颯茄の頬を優しくなでながら、


「あとで俺の部屋へおいで」

「はい」


 颯茄の体温が一、二度上がった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ