綺麗に咲いて:貴増参の場合
颯茄がリビングのカウンター席へ行こうとすると、突然目の前に貴増参が現れ、華麗にひざまずいた。
「僕のお姫様、舞踏会へご案内いたします」
「え……?」
颯茄は突然の言葉に、驚いた顔をしたまま、二人は瞬間移動でいなくなった。
意識が戻ってくると、心地よいワルツが聞こえてきた。そこには大きなシャンデリアの下でたくさんの人々がいる。颯茄は目を輝かせる。
「うわ〜! ご馳走がたくさん並んでる。踊ってる人もいる。これどう言うことですか?」
今日は家でパーティなどない日だったはずだ。
「ホログラム方式の舞踏会です」
「こんな楽しみ方もあるんですね」
貴増参の服装はタキシードに、颯茄の服はドレスに変わっていた。手を取り合って、ステップを踏み始める。
「さあ、二人きりの時間です」
「はい」
「君はスランプだそうですね」
「はい。でも、みんなから色々意見がもらえて、脱出できそうです」
「それはよかったです」
華麗にターンをし、颯茄はまた貴増参の腕の中へ。
「どんな長い夜も、必ず朝がきます」
「貴増参さんが言うと、説得力があります」
「それはなぜですか?」
ふと立ち止まり、踊っている人の中をすり抜け、壁際へとやってきた。
「悪の治世で、五千年間、終わりの見えない時でも、信じ続けていたんじゃないんですか? 世界は救われると」
「そうですね? 僕はポジティブ思考なので、あまり気にしていませんでした。悪も意味があったのではないかと、今でも思っています」
「憎んだりしてないんですね」
「僕は神です。憎んだりなどしません。ただ変わって欲しいなとは思ってました」
「変わって今はとても平和です」
文明は急速な発展をつげ、家でこうして、舞踏会ごっこができるようにまでなっていた。今はしゃいでいるであろう別の部屋にいる子供たちも、安心して眠れるようになった。
ふと音楽が途切れ、貴増参が優しく微笑む。
「こんな静かな夜を僕と過ごしませんか?」
「ふふっ、はい」
颯茄は照れたように笑うと、貴増参を指をパチンと鳴らした。
「これはしまっちゃいましょう」
「舞踏会も終わり」
ただの広間に戻り、日常へと帰る。瞬間移動で、貴増参は颯茄をベッドへと運ぶ。
「今度こそ、二人きりの時間です。僕の腕の中で綺麗に咲いてください」
「ん……」
何よりも甘いキスが、颯茄に落とされた。




