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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
ベッドに誘って
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空飛べばいいじゃん:焉貴の場合

 毎日毎日、パソコンに向かっては文字を打ち込み、何も形にならない。颯茄は今日こそ酒を堪能しようと、粋がって瓶に手を伸ばそうとした。

 そこで、隣からマダラ模様の声が割り込んできた。


「ねえ、ちょちょちょ、きて」

「え、焉貴さん、どこに――」


 手を引っ張られたと同時に、瞬間移動で二人は消え去った。


 次に現れたのは綺麗にライトアップされた庭の散歩道だった。掴んだままの酒瓶を恨めしそうに見ながら、颯茄は唇を尖らす。


「勝手に連れてこられたあ」

「お前今、スランプなの?」


 相変わらずの、お構いなし。颯茄は少し戸惑った、心配かけたくなくて。


「え、ああ、まあ。そうです」

「俺もそうなんだよねー」


 焉貴はボブ髪をかきあげた。


「え、そうなんですか!?」


 颯茄の素っ頓狂な声が庭に響き渡った。


 焉貴はいじけた子供のように座り込み、落ちていた小枝で、地面に線を引っ張っている。


「学校やめてさ、絵描きになったけど、同じ構図ばかり浮かんできて、新しいのが生まれないの」

「焉貴さんでもそうなのか。私なんて、まだまだですね」


 颯茄は焉貴の隣に座り込んだ。


「どういうこと?」

「焉貴さんは生きてる時間が長いじゃないですか、三百億年ですもん。それでも、スランプとかくるんだって思うと、親しみが湧きます」

「じゃあ、そんな俺とあれしちゃう?」

「何で大人の話になるんですか?」


 いきなりの誘いに、颯茄は戸惑った。


「魂が突き動かされて、違うもんできるかもしれないよ?」

「なるほど」


 そんな話もまことしやかに囁かれている世の中。


 街でナンパでもするように、焉貴は右手を軽くあげた。


「それとも、空飛んじゃう? 夜景見に行くのもいいじゃん」

「それもいいなあ……」


 あの高さから飛んだから、首都の街はどんなに綺麗だろうと、颯茄は想像するだけで、ワクワクする。


「じゃあ、両方しちゃえばいいじゃん」

「そうですね」

「じゃあ、行くよ。手つないで」

「はい」

「首都の街に!」


 お城の上空を飛ぶことは禁止されているが、そのまわりに整然と並んだ街明かりに、颯茄は圧倒された。


「うわー! 綺麗。こんなに綺麗なこと、すっかり忘れてました」

「そう」


 焉貴は気のない返事。でもこれはいつものこと。彼に感情はないからだ。


 颯茄は街の一角を指差して、


「あ、あそこのワッフル美味しいんですよね」

「お前、ほとんど食べないじゃん」

「私は食べることが好きではないので、一口かじるだけでいいです」

「酒は飲むよね?」

「はい、私の体は酒と葉巻でできてますから」

「俺は果物ね」

「そうそう、そうですよ。焉貴さんも偏食じゃないですか?」

「そうね」


 あまりそばにこない夫だが、夫婦は夫婦。似たところもあったのだ。


 しばらく夜風に当たりながら、街を眺めていたが、焉貴がナンパでもするように軽薄的に声をかけた。


「そろそろ俺の部屋に行く?」

「はい」


 二人の姿は夜景から消え去った。次に現れたのは焉貴の部屋。あちこちデッサンが散らかる床。そこを無視して、いきなりベッドの上へ。


「俺の自在に曲がっちゃうから、お前のとこ当てちゃう」

「ふふふっ」


 夫婦の暗号。颯茄が嬉しそうに笑うと、焉貴はそっとキスをした。

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