表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
ベッドに誘って
807/962

瞬間移動で腕の中へ:孔明の場合

 さっきから部屋にはパチパチとパソコンのキーボードを叩く音が響いていた。


 しかしすぐに止まって、何行か開けられて、また文字が打たれ始めるを繰り返している。


 カーテンは開けっぱなしで、部屋の主は小説に没頭していたが、とうとう集中力が切れた。


「あぁ〜、わかんない。ここのセリフ、孔明さんだったらどういう――」


 そこまで言った時、颯茄は部屋から消え去った。


「――の?」


 言葉の呟きは部屋に閉じ込められたものではなく、どこまでも広がっていった。


「あ、あれ?」


 急に暗くなった視界に、颯茄はひらめく。


「誰かに瞬間移動かけられた。誰に?」

「ボク」


 声のしたほうへ向くと、白い布が闇色に染まっていた。


「何で、急に移動させたの?」


 あれから色々あって、丁寧語からタメ口に颯茄は変わっていた。


「ボクのこと考えてなかった?」

「考えてたけど、どうしてわかったの?」

「ふふっ。それは秘密」

「大先生の頭の中はどんな計算式になってるんだ!」


 どうやったっておかしい。


 だが、妻はそんなことは放っておいて、今連れてこられた場所を見渡す。


「っていうか、どうして屋根の上にいるの?」


 遠くには首都の街が宝石箱をひっくり返したようなイルミネーション。空中道路を走る車のテールランプ。ここは住宅街で、車はあまり走っていない。


 孔明は空を見上げる。そこには満天の星が広がっていた。キラキラと輝く。


「星、綺麗でしょ。これを見ながら飲むと、疲れが吹き飛ぶの」

「この星をいつも、我論うぃろーじんは見てるんだね」

「あの星にもボクたちと同じように人が住んでて、毎日悩んだり、笑ったりしてるんだよ」

「そうだね」


 世界は広い。自分の悩みがちっぽけに、颯茄は思えた。


 酒には強い孔明。今日もきつめのを飲んでいて、ほろ酔い気分。颯茄にいきなり抱きついた。


「颯《りょ〜》ちゃん、お疲れ様」

「あれ、何で知ってるの?」

「もう、颯ちゃんは忘れちゃうんだから」

「忘れた?」

「瞬間移動しようとする物や人の状態はいつでも、こっちから見えるんだよ。ブロックされなければ」

「あぁ、そうだったね」


 パソコンに向かって、パチパチと文字を打ち込んでいるのが、夫からは丸見えだった。


「颯ちゃん、のんびりしてる〜」

「孔明さんと話すと、のんびりしてくるんだよね、いつも」

「チューする?」


 孔明は可愛く小首を傾げた。颯茄は恥ずかしくなる。


「……うん」


 唇が触れると酒の甘い匂いと、焚き付けた香がふわっと広がった。野外で夜。開放感満載の風景に、夫婦二人が寄り添う影が浮かび上がる。何度目かの軽いキスのあと、孔明がねだった。


「もっとする?」

「する」


 孔明はすっと立ち上がって、手を差し伸べる。


「じゃあ、ボクの部屋に行こう? 外が見渡せるから、開放感があるよ」

「あれは外じゃなくて、正確には部屋の中にある庭!」


 颯茄が言ったあとすぐに、二人の姿は屋根から消え去った。スマートに瞬間移動である。


 次に現れたのは、柔らかなベールを敷いてあるベッド。薄暗い中で、唇だけがやけに熱く感じる。


「ん……」


 孔明が颯茄を背中から抱きしめると、彼女は彼にすっぽりと覆われた。


「うねうねしていい?」

「うん、いいよ」


 夫婦だけの暗号。


「ありがとう、颯ちゃん」


 孔明はさわやかに微笑んで、颯茄をベッドへそっと押し倒した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ