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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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Time of repentance/8

 玄関ホールに置かれた座り心地のよいソファーに腰掛け、ダルレシアンは足を組んでいた。


「瞬。午後は何するの?」


 一足早く玄関にきた、魔導師と小さな人は仲良く待ち続ける。


「おひるねとピアノ!」

「そう。瞬はどんな曲が好きなの?」

「ちょうちょとチューリップ」

「じゃあ、その曲聞かせて?」

「わかった」


 同じ空間に天使たちが控えていた。話に夢中のダルレシアンには聞こえないように、ラジュは向いのソファーに女性のように足をそろえて、ニコニコしている。


「崇剛の弱点は子供みたいです〜。この先の厄落としには、子供関連のことを行いましょうか〜?」


「五十歩百歩――君と弱点が同じです」ラジュの椅子の背もたれに、肘をついていたクリュダが言った。


「おや〜、瑠璃のことですか〜?」


 ラジュが振り返ると、金の長い髪がサラサラと肩から落ちた。


「昔の話っすか? いつかまた、できるようになるっすよ。死なないんすから。ラジュさんの未来は明るいっす!」


 アドスは気さくに、ラジュの肩をバシバシと強く叩いた。どこから出してきたのか、ラジュは玉露入った湯飲みをズズーッとすすり、返事は返さなかった。



 その頃――屋敷の一番東の部屋で眠っていた瑠璃は、ベットで寝返りを打ちながら、「お主など眼中にないわ……」ボソボソと寝言を言って、また夢の中へ飛んでいった。



 ラジュをじっと見つめている瞳があった。無感情、無動のカーキ色のそれを持つカミエは、武道家の目で戯言天使の奥深くをに見抜いた。


「あたり一帯に広がる金色の気」

「貴様また、修業バカにもほどが――」


 服が汚れるのを気にして、椅子に座ることができないシズキは、今日も完璧と言わんばかりに、ゴスパンクのロングブーツをクロスさせて立っていた。


「違う」合気の達人は首を横に振る。「ラジュの女を惑わせる気の流れの正体がわかった」


 シズキは鼻でバカにしたように笑う。


「気の流れだけで人を惑わせることなどあるはずがないだろう」

「――俺もそれあるって、言われたことあるね」


 天使の輪っかと立派な両翼をつけた、ナールが横から割って入った。


 シズキは訝しげな顔をする。「何だと?」


「あの気の流れは、近づいてきた人を惑わせるものだ。武道家でも持っている人間はかなり少ない」


 絶対不動のカミエに負けず、シズキは言い返した。


「ナールに惑わせられたことは、俺は一度もない」

「あれほど強力だと、気づかないうちに巻き込まれている」


「俺は神に誓って、そんなことは一度もない」鋭利なスミレ色の瞳はカミエからナールへと向けられ、「その話、誰に聞いた?」


「武術が得意な神様から」


 無機質な表情ではなく、ナルシスト的な笑みで、ナールは軽薄的に答えた。


 身近な神で武術と言えば一人しかいない。


「夕霧命様か?」

「そう。カミエの守護神ね」


 軽快にそこまで答えていたナールは、シズキがここで平気で話していることを問い詰めた。


「――っていうか、お前、何でここにいんの? 守護の仕事どうしたの?」

「俺を見えもしない、声も聞こえない、国立のそばにいるだけ、時間の無駄だ。コンピュータ制御で十分だ。少しでも、霊感を磨く気にもなれば、そばにいてやってもいいがな」


 腰の低い位置で腕組みをして、シズキは俺様全開の堂々たる態度だった。



 その頃――聖霊寮で死んだ目をしたゾンビみたいな同僚に囲まれながら、仕事をしていた彰彦は、


「ハクション!」


 手に持っていた紙を危うく紙を破いてしまうところだった。鼻を手でさすりながら、鋭い眼光であたりを見渡す。


「誰か、オレの噂してやがんのか?」


 うかがっていたが、話している同僚は誰もらず、彰彦は事件の調書をまた記入し始めた。



 再び、ベルダージュ荘の玄関――


 教会から地道に歩いてきた涼介は、ダルレシアンの膝の上に乗っている瞬を見つけて、うんうんと首を大きく縦に振って、妙に納得した。


「魔法って本当にすごいな。この広い屋敷も一瞬にして隅々までいけるんだからな」


 しばらく談笑していたが、待ちくたびれて、ダルレシアンの膝の上で足をパタパタさせていた瞬は、勢いをつけてぴょんと床に降り立った。


「せんせい、まだかな?」


 二階へと続く階段を見上げようとすると、茶色のロングブーツが一段降りてきた。


「お待たせしました。それでは、行きましょうか?」


 紺の長い髪はいつも通り、もたつかせてターコイズブルーのリボンで縛り、瑠璃色の貴族服に身を包んだ崇剛が、上品に玄関ホールまでやってきた。はずしたメガネの代わりに千里眼を使う準備は万端。


「おやまのぼり〜♪」瞬はぴょんと飛び跳ねると、崇剛とダルレシアンの手を握って、玄関の扉へと近づく。


 執事はドアノブを回して外へ押しやり、秋のさわやかな風が新たな幕開けのように吹いてきた。


 眩しい日差しで、冷静な水色の瞳は一瞬閉じられたが、美しい三沢岳の景色を眺めると、心霊探偵はエレガントに微笑んだ。


                            次回作へつづく

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