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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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始まりの晩餐/8

 同じように聞こえていない彰彦は、チーズを一口かじった。


「あぶれたモン同士で話すっか」


 ジンのショットを数杯飲んでいる男を、ビールを何杯も飲んでいる男は胡散臭そうに見た。


「お前のその目、嫌な予感がする。子供にも聞かせられる話にしろ」

「いいぜ」


 彰彦は椅子の上に乗せた足を組み替え直すと、スパーがカチャッと鳴った。


「じゃあよ、仕事の話だ」

「仕事? 口外していいのか?」


 この男は刑事だ。涼介は眉をひそめた。太いシルバーリングをつけた大きな手のひらで、彰彦は涼介の腕を軽く叩く。


「ここだけの話にしとけよ」

「あぁ、わかった」


 涼介がうなずくと、ふたりはいつの間にか、食堂の賑わいからはぐれていた。


    *


 ――――ザーッと雨が外で煙る、聖霊寮の不浄な空気の中に、ふたりで立っていた。相変わらずうず高く積まれた資料に囲まれた谷間に、ひとつの事件の記録が広げられていた。


「ある日よ。外国と関係する事件の資料を見つけたんだよ」

「どこの国だ?」

「噂のシュトライツと隣接する国だ」


 心霊事件が紐解かれると――、いきなり薄暗い廊下で、彰彦と涼介は靴音を響かせて歩いていた。他に職員がいるのに、不自然なほど大きく物音が響く。


「何があったんだ?」

「学校から人がひとりずつ消えてくっつう事件が起きてるらしくてよ。出張でその学校に行ったんだ」

「出張なんてあるんだな」


 聖霊寮の廊下を歩いていたはずなのに、教室が並ぶ学校の通路をいつの間にか歩いていた。死を連想させる冷たい壁と天井に囲まれた空間。場所は変わったはずなのに、相変わらず雨の音が降り注ぐ。


「でよ、高等学校っつって、十代後半のガキが通うところなんだよ」

「ふーん」


 真っ暗な空に、青白い閃光がストロボを焚くように、ピカッとあたりを一瞬だけ昼間のように明るくした。


「行ったその日がよ、あいにくひでえ雷雨でよ。この国みてえにろうそくもガス灯もなくて、電気で明かりを取ってたんだ。がよ、落雷して電気はオジャン――停電して真っ暗だ」


 遠くにいたはずの雷が、まさしく光の速さで一瞬にして飛んできて、窓から見上げた校舎の屋上にあった避雷針に、青白い線を作ってバリバリと世界を切り裂くように落ちた。


 思わず目を閉じて、再び開けると、薄暗い廊下に赤い点が浮かび上がった。まるで血のような生々しい色をして。


 涼介は急に寒気がして、両肩を腕でさする。


「学校って独特の雰囲気あるよな。それに、七不思議とかあって、思い出さなくていい時に思い出す。ちょっと怖くなってきた」


 赤い点を通り過ぎようとすると、遠くに人影がゆらゆらと浮かんだ。


「でよ、生徒がみんな同じ方向に歩いてくんだ」

「ど、どこにだ?」


 にえか処刑台でもあるのか。涼介は心臓がバクバク言い出す。


「それが暗くてよ、よくわかんねえんだよな」


 自分たちの足音に別の音が、カツンカツンと人気のない学校の廊下に混じり始めた。音が反響して、どこが源なのかわからず、涼介はキョロキョロする。


 すると今度は、自分の足音だけになっていた。彰彦がいない――。ひとりきりになってしまった、怪奇現象が起きている廊下。


 冷たい汗が背中をすうっと落ちてゆく。すると、背後にふと人の気配を感じた。恐る恐る振り返るとそこには、ウェスタンスタイルの心霊刑事が立っていた。


「そのうち、センコーがやってきてよ、生徒がひとりずついなくなってるっつうんだ」

「やっぱり本当だったのか?」


 彰彦はスパーの音をさせながら近づいてきて、涼介の腕を手の甲で軽く叩いた。


「まあ、最後まで聞けよ」


 また靴音が他にした。彰彦と一緒に見ると、大人――先生がひとり廊下を横切っていった。


「オレも生徒の人数数えたんだが、マジで減ってたんだよ」

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