表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
790/962

始まりの晩餐/7

「可愛らしい人ですね、瑠璃さんは」まるで子供を見守るような温かな眼差しで、崇剛は手の甲を中性的な唇に当てくすりと笑った。


 置いてけぼりを喰らっている、彰彦と涼介。カラのショットグラスに、彰彦はジンを注ぎながら、缶ビールの二本目を開けようとしている涼介に問いかけた。


「ビールしか飲まねえのか?」


 昨日の晩――カクテルの名前を列挙していた執事。酒が好きなのかと思いきや、違うのか。


 涼介の瞳には、向かいの席で楽しそうに話している瞬が映っていた。


「本当は他のも、勉強のために飲みたいんだが、瞬を風呂に入れたりしないといけないからな。酔っ払うわけにはいかないだろう?」


 まさか主人に面倒を見てもらうわけにもいかない。小さな瞬とほとんど一緒に過ごす毎日だが、それはそれで幸せだと思うと、涼介は少しだけ視界が涙でにじんだ。


「そうか」彰彦は何気なく返事をして、ジンのふたをくるくると閉め、


「おう、瞬?」


 横顔を見せていた瞬は少し驚いて、不思議そうな顔をこっちへ見せた。


「なに?」

「オレと一緒に風呂入っか?」

「うん、はいるはいる! ふふ〜ん♪」瞬はピアノを弾くように指を動かしてご機嫌になった。


 この男の優しさなのか――。涼介はそう思ったが、執事は情にもろい性格だった。


「お前、仕事で疲れてるんだろう?」

「大人がこんだけいんだからよ、少しは甘えてやりてえことやれや」


 彰彦は手の甲で、涼介の腕を軽くトントンと叩いた。この男はまだ二十八だ――。やり直しはいつだってできるが、早いことに越したことはない。


「そうだな。サンキュな」


 涼介はありがたみが身にしみて、そう言うのがやっとだった。ビールが今日はやけにおいしい。


 しかし、感動できたのはそこまでだった――。


 手についていたパンのカスを落としていた、瞬がパッと表情を明るくさせた。


「あ、そうだ! せんせいとダルレシアンおにいちゃんもいっしょにはいろう。みんなでなかよし〜♪」


 子供の無邪気な発言だったが、彰彦の脳裏に浮かんだ――男四人が一緒に風呂に入っているところが――


「そいつはやばいぜ」


 ぼそっと彰彦の独り言が食卓に舞うと、


「え……?」瞬はぽかんと口を開けた。


 いつの間にか額に手を当てて、顔が青ざめていた涼介が、


「それは大人になってからがいいな」


 ボケてんのか――。執事の妄想が暴走していたとは知らない彰彦は、ショットグラスを少し乱暴にテーブルへ置いた。涼介に喝を入れるように。


「大人になってからのほうが、もっとやべえだろ」


 向かいの席で展開されている話についていけず、瞬は丸い目をパチパチと瞬かせていた。


 ビールを飲んだグラスの縁を、指先で拭いながら、ダルレシアンは大人の話から小さな子供を救出する。


「毎日変わりばんこに入ろうか? 瞬」


 純真無垢なベビーブルーの瞳はみるみる輝いていった。


「うん! せんせいは?」


 ずっと一緒に暮らしていて、いろいろなことを教えてくれる先生。どんな理由があるのかは知らないが、超えられない壁がある――瞬は子供ながら感じ取っていた。


 懐中時計に冷静な水色の瞳を落とすと、いつもよりも食事の時間が伸びていた。こんな賑やかな食卓は、故ラハイアット夫妻が亡くなって以来、今までなかった。


 心が温かい――。そうしてくれたひとりは、自分の返事を待っている小さな人であることは紛れもない。


 瞬は私が気づかないことを教えてくれる――。氷河期のようなクールさではなく、崇剛の優雅な微笑みは、今はどこまでも暖かな陽だまりのようだった。


「一緒に入ることができる時は入りますよ」


「やったあ!」瞬は両手で万歳した。


 食事も少しずつ減ってゆき、プリンに手をつけ始めるまで、涼介と彰彦は時々話の波に乗れずにいた。テーブルの上でまったく手がつけられていない料理を、涼介はため息まじりに見つめる。


「瑠璃さまの言葉が抜けてるから、話がわからない。いつもの夕食だ」


 ひとりだけ、ポツンとはぐれてしまう。しかし、今日からは違うのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ