探偵は刑事を誘う/14
出会ってからの短い間で、神父である自分を利用して、罠を仕掛けたのだと思うと、優雅な策略家は至福の時を迎えた。
「でも、気持ちは本当かも? ふふっ」
さっきとは違って、ダルレシアンは照れたように笑った。
いつもは、優雅な聖霊師だけの応接セットだが、やけに仲のいい魔導師との関係を見せつけられて、彰彦は青白い煙を吐き出すと、輪っかの形で浮かび、不浄な聖霊寮の空気に消えていった。
「どうなってんだ?」
「I maybe bisexual?/ボクはバイセクシャルかも?」
悩まないでほしいと、ダルレシアンは思った。
厳格な宗教の長で、同性を好きだと言えば、窘められる日々だった。いつしか、誰も好きにならないように、クールな頭脳で恋心を胸の奥深くに沈めるようになったのだ。
「そうか」黄昏気味にしゃがれた声で言って、彰彦は大きなため息とともに長く煙を吐き出した。
お前さんも同じ穴のムジナか――
元教祖の言葉で、彰彦は少しだけ救われた気がした。
だがしかし、ダルレシアンは教祖という立場から神によって解放されたのだ。悩む必要などもうどこにもない。
「I love smart parson. So you might be my rival?/ボクは頭のいい人が好きでね。だから、キミはボクのライバルかも?」首を可愛くかしげると、漆黒の長い髪が白いローブの肩からサラサラと落ちた。
おかしな三角関係になったものだ――崇剛はふたりの間で珍しくため息をついた。
「から、さっきから英語てしゃべってるってか? 余計な気遣いしやがって」
彰彦は口ではそう言っていたが、鋭いブルーグレーの眼光はいつもより緩んでいた。
しかし――
「あっかんべー!」ダルレシアンは子供がするように、片方の目の下を指先で引っ張って、舌を大きく出した。元教祖は挑戦的を通り越して、悪戯坊主満載だった。
「てめえ……!」彰彦はうなるように言って、ミニシガリロを灰皿に投げつけた。
下手に出てりゃ、いい気になりやがって――
崇剛という共通点で結ばれた、ふたりのやり取りを黙って見ていた本人は、懐中時計をポケットから出し、インデックスをつけて話をまとめ出した。
「いつから、屋敷にこれますか?」
荷物の整理などがあって、すぐにはこれない可能性が高いと踏んでいたが、彰彦は即答だった。
「今日からでいいぜ」ソファーの背にもたれて、心霊刑事は大きく伸びをする。
「そうですか。迎えは何時にしますか?」
「五時だ。オレは残業しねえ主義だ」
崇剛は優雅に立ち上がり、
「それでは、またきますよ」
線の細い瑠璃色の貴族服が出口へ向かおうとすると、白いローブは後ろ向きで歩きつきながら、
「Bye-bey, Akihiko!」
ちゃっかり呼び捨てにしている魔導師と崇剛を見送って、彰彦は鼻で少しだけ笑った。
「悩んでるオレがアホみてえに思えんな」
ローテーブルに置いてあった銀のシガーケースとジェットライターをつかみ取ると、シルバーリングとぶつかり、カチャカチャという音が聖霊寮の淀んだ空気に歪んだ。




