探偵は刑事を誘う/10
そこには、聖霊寮の窓へ冷静な水色の瞳をやり、神経質な横顔とターコイズブルーの細いリボンでわざともたつかせて縛った紺の長い髪で、相変わらず中性的で貴族的な男が座っていた。
優雅な笑みはいつも通りだったが、瞬間凍結させるような冷たさが、やけに印象的で、平時ではないことが国立にはよくわかった。
崇剛の背中を見るようになったダルレシアンは、何を神父が言い出すのか予測できた。それは長い年月に、たくさんの人から懺悔を聞いて手にしたデータからだ。教祖は何気ない振りで、懐中時計も持っていない自分の爪を見る癖を始めた。
猛吹雪を感じさせるような感情のない声色で、崇剛は話し出した。
「先日、こちらのようなことを、ある方から聞きましたよ。火のメシアを持つ者が、次々と転生する隣国――紅璃庵。そちらの国で昔から受け継がれている陰陽易の術式のひとつで、人型に切った紙に自身の息を吹きかけ、一種の呪詛のようなものを込め、遠く離れたところにある物事を知る、式神――という方法があると。そちらをできる方が、花冠国にもいらっしゃると」
策略家らしく遠回しな言い方をしてきた――。国立の鋭い眼光は崇剛を射るように見据え、吐き捨てるようにうなった。
「てめえ……」
死んだような目をしていても、同僚にはここでの会話は筒抜けだ。国立は言葉の続きを心の中で語る。
罠を張りやがったな。
昨日、どっから聞いてた――?
式神の話は帰り間際にした。その前は――
頬で視線を受け止めている崇剛は、デジタルに感情を切り捨てた。
前回会った時、あなたは自身の気持ちで悩んでいるように見えました。
面と向かって聞いても、答えていただけない可能性が高いです。
ですから、気を失ったふりをして、情報をいただきましたよ――
慈愛がありすぎる神父は、今は氷河期のようにどこまでもクールだった。
「それから、私の元へ同性を愛してしまったと、懺悔をしにこられた方がいました。ですから、私はこちらのように言いました」
少しの間のあと、中性的な唇が動いた。
「性別に関係なく、人を愛することは非常に尊いものであり、素敵なことです――と」
神の元で生きている神父は差別などしなかった。
私はあなたの気持ちを尊重します。
素直に自身の気持ちを想えない……。
そちらはとても辛いことであったと思います。ですが――
「さらに、そちらの方は相手の心を知りたいともおっしゃっていました。ですから、千里眼を使って聞き出し、こちらのように伝えました」
国立の心臓がドクンと大きく波打った。
「残念ながら、今のところは、私はあなたの気持ちに応えられません――と」
私が瑠璃を愛している――そちらの気持ちは厄落としでした。
すなわち、私が瑠璃を愛しているという気持ちは嘘だったのです。
ですが、あなたの気持ちを理解するためであったのかもしれません。
しかしながら、私は性的にどなたかを今まで愛したことはありません。
ですから、情報がありません。
従って、可能性が導き出せないのです。
私があなたを愛するという可能性はゼロではありません。
しかしながら、私は今あなたを愛していません。
ですから、私はあなたにきちんと断りましたよ――
下手に期待を持たせることは、結局のところ相手を傷つけるだけなのだ。それは決してしてはいけないこと。神父はよく心得ていた。




