表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
763/962

探偵は刑事を誘う/7

 パラパラとページをめくると、何度も読んだのか、自然とあるところで本は開きっぱなしになった。


「そこで、ベルダージュ荘を初めて見たんだ」


 花冠国という独自の文化で、外国の建築様式を積極的に取り入れた、非常に珍しい建物として紹介されていた。


 よく撮れていた。高台に立つ赤煉瓦の建物。まわりの山々は控えめなのに、屋敷は洋風で存在感を強く持っていた。


「でも、前にも見た感じがした。不思議な体験だった。見たこともなのに知ってたから」


 全てを記憶している頭脳を持つ人間の言う言葉ではなかった。


 崇剛は本から視線を上げ、


既視感デジャヴではないのですか?」


 それが妥当な判断だ。ダルレシアンはシュトライツから出たことがない。似たような建物を国内で見たものが、脳の中で合成した可能性が高いだろう。


 ダルレシアンは両肘を膝の上に落としたまま、どこか遠くを見ていた。


「最初そう思ったんだけど、違うんだ。外観しか本には載ってなかったけど、中がどうなってるかまで思い浮かんだ」

「そうですか」


 崇剛は神経質な指先で後れ毛を耳にかけた。風が吹いてくると、白いローブに木漏れ日がマダラ模様をゆらゆらと描く。


「さっき、屋敷の中を歩いてたら、教会に続くドアの前で、大きな鏡がここにあったって思い出したんだ」


 幽霊だと執事が騒いでいたのは、こういう思惑があったからなのだ。


「そちらの話は先ほど、涼介から聞きました。鏡があったことだけですか? 気づいたことは」

「ん〜? その鏡を置いた理由って、屋敷を広く見せる効果で置いたんだって思った」


 ずいぶん専門的な話が出てきた。そうなると、可能性は自ずと絞られてくる。ダルレシアンは本当は予測がついているのだ。だがしかし、確信を得られないのだ。だから、千里眼を持っている崇剛に聞きたいのだった。


「これって、説明がつく?」


 噴水の水が一斉に空へ向かって勢いよく上り、涼しげな音を醸し出す。


「他に何か情報はありませんか?」

「ん〜? あの屋敷を建てた、Leon Amatsuって名前を見た時、どうしてだかわからないけど、懐かしい感じがした」

「天都 レオンですね。私の先祖です」


 水辺に小鳥たちがやってきて、楽しそうなさえずりが耳をくすぐる。穏やかな日差しの中で、崇剛は千里眼の瞳を開いた。


「そうですね……?」


 時を戻す、二百五十年前へと。映画でも見ているように、屋敷の中を歩いてゆく。ふと物音がして、魂だけで時を超えた崇剛は振り返った。そこに立つ男は何か考え事をしているようで、こっちへ向かって歩いてきて、崇剛の体をすり抜けながら、独り言をつぶやいた。


「鏡を置くか……」


 あれが、天都 レオン――。魂の名前が千里眼の力で浮かび上がった。そうして、今隣にいる漆黒の長い髪をした男と見比べてみると、二枚のトレースシートを重ねたようにピタリと合った。


「そういうことですか」


 崇剛はそう言って、閉じていたまぶたをすうっと開くと、リムジンに揺られていた――現実へと戻ってきた。


 車が走る振動で揺すぶられている体の感覚が蘇った。


「――どういうこと?」


 聡明な瑠璃紺色の瞳がのぞき込むように見ていた。崇剛はあごに当てていた指をといて、優雅に足を組み替える。


「人の魂は輪廻転生をしていると言われています」


「そういう教えの宗教もあるね」ダルレシアンの精巧な頭脳の中で、関係する本のページや人から聞いた話が鮮やかに浮かび上がる。


「以前生きていた人生を過去世と呼びます。その内、ひとつ前の過去世を前世と呼びます」


 つまり、一番高い可能性は――


「ボクの前世は天都 レオン――だった?」


 気がつくと、崇剛のすぐ隣に、怪奇現象が起きたみたいにラジュが座っていた。ニコニコと微笑みながら、ハンドベルをチリチリ〜ンと鳴らす。


「正解で〜す! ダルレシアンは天都 レオンの生まれ変わりです〜」


「ラジュがいるの?」声だけ聞こえているダルレシアンは、いるだろうと思われるところをチラッと見たが、ただリアシートが広がるだけ。


「えぇ、私はあなたの守護天使ですから、いつでも必要な時は現れますよ〜?」そう言って、ラジュはまるで幽霊が消えるようにいなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ