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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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魔導師と迎える朝/9

 ひと騒動あった、ベルダージュ荘の朝食――。


 昼夜逆転している聖女にとっては、寝る前の食事――夕食となる朝食。だったが、瑠璃は昨日の寝不足が響き、今朝は欠席。彼女がいつも座っている瞬の隣には、涼介がいた。


 瞬は向いの席に座っている、凛々しい眉を持つ、知らない大人を前にして、純真無垢なベビーブルーの丸い瞳をパチパチと不思議そうにしばたかせていた。


「おにいちゃん、だれ?」


 興味津々で、瞬の小さな足は椅子の下でパタパタと動いていた。子供と話すこともよくあった教祖は、春風みたいな柔らかな笑みを見せる。


「ダルレシアン ラハイアットだよ」


 崇剛は思う。昨日は花冠語を話したことは一度もなかった。それなのに、今日は話している。やはり夢の中と同じように話せるようだ。執事の予知夢も貴重な情報源かもしれない。 


「キミの名前は?」

「ぼく、まどか!」

「素敵な名前だね。いくつ?」

「ごさい!」

「ボクは二十九歳。友達になってくれるかな?」

「うん、いいよ」


 ダルレシアンは白いローブのポケットから、何かを取り出そうとした。


「じゃあ、『携帯』の番号教えて?」そう知って、四角い薄っぺらいものを、大きな手のひらで持ち、聡明な瑠璃紺色の瞳でじっと見つめた。


「けいたい……?」チンプンカンプン――という呪文でも聞いたように、瞬は不思議そうに首をかしげた。


「あれ? 子供だから持ってないの?」


 ダルレシアンは罠を張っているようにも見えず、崇剛がふたりの間に割って入った。


「『ケイタイ』とは持ち歩くという意味で使っていますか?」


 言葉は話せるが、言い間違いか。


「そう」ダルレシアンは短くうなずいて、「携帯電話のこと」間違ってはいないことを知ると、花冠国で暮らす人々は、壁の一角に視線を集中させた。


「――持ち歩く電話?」


 そこには、丸が三つついた、埴輪はにわみたいな顔をした、木の箱が壁にかけてあった。


 あんな大きなものが、ダルレシアンの手のひらに乗っているものと同じだと言う。崇剛は冷静な水色の瞳を、電話だと言うものへ戻した。


「持ち運べる電話ですか?」


「そうだよ」ダルレシアンはそう言って、数字が九まで表示された画面を、崇剛に見せた。


「電気は必要ないのですか?」


 新聞で読んだ、何か大きなものを動かすには電力がいると。惑星の反対側にある先進国から、発展途上国へと瞬間移動という斬新ざんしんな方法で輸入されたが、エネルギー源がない国では、すぐに使えなくなるのではないかと、崇剛は心配した。


 すると、ダルレシアンの口から、科学技術の差がどれほどあるのか思い知らされるのだった。


「十年前までは電気で充電して使ってたけど、空気中の水素をエネルギー源に変えて充電するものに変わった。だから、空気がある限り、使い続けられるよ」


 教祖として暮らした日常には、自身の持ち物などほとんどなかった。信者のために、予算は使い、己の好きなものを買うとしたら、消費してなくなってしまう――食べ物くらいだ。携帯電話は唯一の持ち物だった。


「ボク、携帯でゲームするのが好きで、いろいろ中に入ってるから、これだけは持ってきちゃった」いつもゲームをしているからこそ、罠を仕掛ける時には、素知らぬ顔でゲームをしているフリというカモフラージュを、よく使ったものだ。


 昨日は忙しくて、携帯をいじる暇もなかったが、今日は晴れて、教祖という堅苦しい立場から解放されて、思う存分ゲームができると思うと、食事をしながらでも、プレイしたくなるものだ。


「どなたかから、連絡がくるのではないのですか?」


 崇剛から当然の質問が投げかけられたが、シュトライツの科学技術の高さは群を抜いていた。

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