魔導師と迎える朝/8
そうして、翌日の朝――
執事のアーミーブーツは二階の廊下を、早足で歩いていた。いつも時間に厳しい主人だが、もうすぐ朝食の時刻だと言うのに姿を現さない。違うことが起きている。涼介は主人の寝室までやってきて、部屋のドアをノックしたが、
「ん? 返事がない……。もしかして、昨日、夕食のあと、また気を失ったとか?」
心配である。昨日は元気だったかと言われれば、若干そうではなかった。しかし、食の細い主人でも、サングリアを飲んで、食事にも手をつけていた。おやすみの挨拶もした。
涼介はドアに耳を当てて中をうかがうが、物音がまったくしない。
「変だ。こんなこと今までなかった。ダ、ダル……も起きてこないし、どうなってるんだ?」
客人は気を失って、夕食にもこなかった。秋のさわやかな朝日が、窓たちから差し込むというのに、執事の心の中は暗雲が垂れ込めそうな予感がしていた。
「崇剛、開けるぞ」廊下に立ったまま、涼介はひとこと断り、スペアキーを使って回したが、引っかかる感覚がなかった。「ん?」手元を見るため、少しかがみ込んで、
「右じゃなかったか。いちいち覚えてないからな」
感覚的な執事は反対に鍵を回すと、かちゃんと鉄が木に当たる音が、朝の廊下に響き渡った。もう一度、ドアを開けようと試みるが、うんともすんともいわない。
「ん、閉めた? 開いてたってことか。崇剛が鍵を閉めないなんて……。やっぱり変だ。何があったんだ?」
開け直して、ドアを中へ押し入れた。顔だけでのぞこうとすると、
「崇剛? どうかした――!」
目に飛び込んできた風景に、思わず息を飲み込み、
「ど、どんな罠だっっ!?!?」少し鼻にかかる声が屋敷中に轟いた。
開けっぱなしになっているドアの向こうでは、主人のベッドの上で、ダルレシアンが崇剛を抱きしめて、ふたり一緒に眠っている。BL苦手な涼介にとって、前代未聞な風景が広がっていた。




