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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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刑事は探偵に告げる/7

 国立は息せきかけ走っている。視界が激しく上下に揺れる。


 話には聞いていたが、実際にくるのはこれが初めて。旧聖堂のはずれかかっている木の扉を見つけ、あの優雅な男まであと少し。


「バッドなフィーリングがしやがったんだよ、さっき」


 仕事中だったが、どうしても妙な気がした。だから、公用車を使って、ベルダージュ荘のある丘を登り、屋敷へやってきた。


 墓場の聖霊寮では車の使用許可は絶対に下りない。自分を慕ってくれている二十代に若い男に頼んでおごりもした。


 出遅れたが、急いで隣町の庭崎市へきたが、涼介が屋敷にいないことに、焦燥感は火に油を注いだ如く激しく燃え上がり、胸騒ぎを覚えた国立は、崇剛の話によく出てきた旧聖堂を目指してきたというわけだ。


 居場所はビンゴ――。


 国立の脳裏に崇剛と最後に会った、半年近く前の四月二十九日、金曜日が鮮やかに蘇る。だからこそ、嫌な予感は現実味を持って、刑事の胸を大きく揺さぶるのだ。


 あの日、気温の高さのせいで左腕に瑠璃色の貴族服をかけ、線の細いシルクのブラウスの背中がやけに、ゆっくりと去って行った――そういう時は、決まって別れがやってくるのだ。


 あの優雅で貴族的。中性的だが男性寄り。神経質で時には大胆。もたつかせ感のある紺の長い髪。ミニシガリロを持つロイヤルブルーサファイアのカフスボタンをともなった包帯の巻かれた細い手。魔除けのローズマリーの香り。エレガントに組まれる茶色のロングブーツ。腰元に挿してある聖なるダガーの鋭いシルバー色の柄。振った笑いには、冷静な頭脳を使ってさらっと振り返してくる男。


 写真と名前を初めて見た時から、そそられっぱなしの男がこの世からいなくなる。もう二度と見ることができないかもしれない。常世とこよへ行く前にできることなら現世うつしよに引き戻したい。


 その想いに駆られ走り続けた国立のウェスタンブーツは、とうとう旧聖堂の前にやってきた。太いシルバーリング六つをつけた手で、


 バターン!


 破壊的な音を出して、両手で乱暴に扉を押し開けた。


 薄暗い中を鋭いブルーグレーの眼光が右へ左へ動く。さっきまで、身廊で気を失ったダルレシアンを支え、涼介にテキパキと指示を出していた崇剛。彼の瑠璃色の貴族服はなぜか、参列席の最後列で、もたつかせ感のある紺の長い髪を背中に流したまま、祭壇に向いて座っていた。


「崇剛っ!」


 白く濁った大理石の上を、長いジーパンとウェスタンブーツの足が勢いよく進み、振り返りもしない優雅な聖霊師の近くまで、心霊刑事は近づいた。


 その時、線の細い崇剛の体は、国立の立つ身廊側へすうっと倒れて、心霊刑事は慌ててかがみ、


「っ!」


 瑠璃色の貴族服を迷彩柄のシャツで男らしく受け止めた。鋭いブルーグレーの瞳を神経質な顔へやると、冷静な水色の瞳はまぶたの向こうに隠され、なぜか気を失っている崇剛がそこにいた。


 ガバッと、国立は優雅な聖霊師の華奢な両肩をつかんで、


「おいっ! 起きやがれ、崇剛!」


 大きく揺さぶったが、崇剛のまぶたが開くことはなく、正体不明のまま。ふたりのまわりには、何が起きたのかわかっている天使六人と守護霊ひとり。


 だが、霊感がほとんどない国立。さらには今焦りが出ていて、感じることもできない状態だった。


 今にも崩壊しそうな旧聖堂に、国立の吐き捨てるような声が響く。


「崇剛! くそっ!」


 聖霊師と参列席の間に両手を入れ、瑠璃色の貴族服は迷彩柄とふたつのペンダントヘッドの前でお姫様抱っこされた。


「どうなっていやがる? 何があった?」


 誰もいない聖堂に、国立のガサツな声が不安の色を持って突き刺さる。紺の長い髪から細いターコイズブルーのリボンがスルスルととけ、急に女性的になったしまった腕の中にいる人の重さを感じながら、霊界を見ることができない国立は必死で呼びかける。


「オレが救世主ってか? 瑠璃お嬢か、トラップ天使じゃねえのか? 崇剛を守んのはよ」


 感じる程度でもいいから霊感を使わせろ――。国立の心の声はみんなに届いていた。白と朱の巫女服ドレスを着た瑠璃は、心霊刑事の後頭部あたりに浮かんでいた。聞こえないのは百も承知で言う。


「お主、我はお主の守護霊ではないからの、申す義理はないがの。崇剛、何か罠を張っておったぞ。余計なことは申さぬほうがよいぞ」

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