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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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Time of judgement/29

 こちらの方法が勝つという可能性が99.99%――!

 それでは、こうしましょう。


 手に持ったままのダガーは、いつもと違って人差し指と中指で挟み持ちはしなかった。


 旧聖堂にさっきから立ってはいるものの、幽体離脱はしていて、悪霊と戦った時のように瞬間移動ができるはずだった。しかし、その選択肢を、崇剛はわざとさけ、勝ち目のないダガーを逆手持ちする。


 敵との距離、二メートル――


 茶色いロングブーツのかかとは後ろ向きで下がっていき、紺の長い髪を縛っているターコイズブルーのリボンが、旧聖堂の聖なる結界にぶつかり、


 距離、一メートル――


 これ以上、下がることが霊的にできなくなった。その時、横一直線に並んでいた天地たちの姿も、危険回避で瞬間移動でいなくなり、突進してくる五十万近くの軍勢の前には、優雅な瑠璃色の貴族服がひとり居残った。


「今です!」


 白く濁った大理石の上で、かかとを軸にして、体の向きを九十度くるっと回して、体の右側が壁と沿うように立った。


 旧聖堂の壁に聖なるダガーをズバッと大きな杭でも打つようにしっかりと差し込む。敵の手が触れるギリギリまで待ち、後ろへ半歩下がり、横へ逃げてゆくように勢いをつけて走り込み、床を後ろへ思いっきり蹴り上げた。


「っ!」


 中性的な唇からりきむ吐息が思わずもれる。ダガーを軸にして、片手で鉄棒を逆上がりをする要領で、崇剛の体は時計の振り子が円を描くように浮き上がり始めた。


 紺色の長い髪が一旦自分の背中から離れ、床へ向かって艶やかに落ちる。崇剛の体は今、ダガーを軸にして、逆立ちしていた。


 自分へと向かってきていた敵軍が空振りに終わり、真下を左から右へ駆け抜けてゆくのを、冷静な水色の瞳で見送りながら、鞘にしまってあるオリジナルのダガーの柄に空いている手をかけ、霊界のものを引き抜いた。


 頂上でほんの少し止まったと思うと、今度は向こう側へ向かって体は重力に引っ張られ始めた。ブランコが前へカーブを描いて動いていくような感覚を持ったまま、バック転をした崇剛の茶色いロングブーツは床に無事に着地。


 紺の髪は背中と並行に流れ落ち、素通りした敵勢の背中に向かって、次々とダガーを投げた。


 背後から狙うと、敵を確実に倒せるという可能性が98.97%――


 だが、敵の軍勢は留まることを知らず、そのまま次の一派がやってきてしまった。あっという間に崇剛は邪神界の兵に囲まれ、自軍の総大将のひとりは――崇剛。


 当然のことながら、待っていたと言わんばかりに、敵の手があちこちから伸びてきて、ガッチリつかまれたと同時に、相手の瞬間移動で、瑠璃色の貴族服は陣地から敵地へと連れ去られてしまった。


 地面には解けてしまったターコイズブルーのリボンと聖なるダガーのオリジナルだけが残されていた。


 上空へ避難していた天使たちは、誘拐されてしまった策略家神父の未来を読み取り、ラジュは困った顔でこめかみに人差し指を当てた。


「おや? 崇剛の死期が迫っています〜。100%に急に近くなってしまいました〜」


 シズキの鋭利なスミレ色の瞳は、敵の軍勢真っ只中に射殺すように向けられた。天使の目には、ガラス細工みたいな綺麗で儚げな崇剛が、なぐさみ者を見るように、敵のさげすみの視線にさらされているのが見えた。


 地底深くで密かに活火山がぐつぐつと煮えたぎっていたが、シズキはとうとう天へ抜けるようにスカーンと火山噴火させ、戦場中に轟くような大声を上げた。


「あの策士がっ! 本当にするとはな。余計な仕事を増やして、ありがたく思え」


 そうして、崇剛が罠を張った通り、聖なる白いロングコートをはおった、ゴスパンク天使は上空からシュッと素早く消えた。

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