Time of judgement/25
白いローブを着て、漆黒の長い髪を結い上げた人間の男は、実は大騒動を巻き起こしていたのだ。
「他の守護霊と守護天使では未来を読み取れず、ダルレシアンが生まれてから五十人以上変わった。だから、俺とラジュとのふたりで守護することになった」
カミエがそう言うと、崇剛の冷静な水色の瞳は、無機質な赤い目をしたナールに向けられた。
カミエが関係しているのは今の話で理解できたが、やはりナールが中心メンバーになっていることが導き出せな――途中で、ラジュの凛とした澄んだ女性的な声が割って入った。
「厄落としを直感と理論で避けて通るんです〜。ですから、人生の修業になりません。そういうわけで、私の保護下で飼い慣らすんです〜」
崇剛は瞬発力を発して、中性的な唇に手に甲を当てくすくす笑い出した。
ナールが無機質なマダラ模様の声をもらすと、
「お前また、わざと失敗して」
疑惑の天使を追及する機会は、ラジュによってさりげなく奪われた。
「そちらは守護する、です」
クリュダがふと戻ってきて、カミエとシズキがすかさずツッコミを入れた。
「いつもボケてくるお前が言うな」
アドスからさらに突っ込みが追い打ちされた。
「ふたりもボケてるっす。クリュダは今戻ってきたばかりっす。さっきまでいなかったのに、会話にちゃっかり参加してるっすよ。そこを突っ込まないとおかしいっす」
クリュダは唇に握り拳を当て、コホンと咳払いをして、
「戻りました――。帰りはまた瞬間移動で、彗星の如くピュピュッとです」
何事もなく、登場の仕方がおかしいのにスルーしていった。それなのに、シズキは鼻でバカにしたように笑い、普通に話し出す。
「クリュダ、貴様、ガステガの化石は見つかったのか?」
そうして、妙な会話のほつれは、ミシンの針が強引に縫ってゆくように過ぎてゆく。
「それが、あちらこちら掘ってみたんですが出てきませんでした。ですが、親切な方がいらっしゃって、ご自身で見つけたこちらを譲ってくださったんです」
「紙……?」
目の前に出されたそれはひどく黄ばんであちこち破れかけていた。シズキが首をかしげると、銀の前髪が耳元へ流れ落ち、隠された目があらわになった。
シズキとクリュダが古びたただの紙に釘付けになっているうちに、カミエとアドスはまた戦場へと戻っていった。
古代文字らしきものが書かれている紙。普段はのんびりしているクリュダは、それが何なのかテキパキ説明し始めた。
「こちらはパピルスという古代エジプトで使用されていた紙です。こちらに世紀の大発見が記されているかもしれません。もしかすると……」
機関銃のように話し続けている遺跡バカを放置したまま、シズキの綺麗な顔立ちは反対側に立っているトラップ天使のサファイアブルーの瞳に向いた。
「ラジュ、貴様はどこから品物を仕入れてきている? なぜ、貴様が古文書などを持っている?」
「うふふふっ、秘密ですよ〜」
不気味な含み笑いが響くと、真相は闇の中に葬られた。
さっき戦場へ出ていったばかりのカミエとアドスが戻ってきた。ラジュはニコニコしながらふたりを見た。
「戦況はいかがですか〜?」
「ちょっとやばいっすね。敵がいすぎっす」
アドスの天色の人懐っこそうな瞳は、ラジュを見ずに、広い荒野を眺めているように見せかけ、敵がひとりもいない晴れ渡る青空を仰ぎ見ていた。
「……押されている」
カミエは何度か瞬きをして、やけにぎこちない言い方をした。
ラジュからニコニコの笑みは消え去り、悲しげにため息をもらす。
「敵が強すぎたみたいです。それでは、私たちはこちらで、全員消滅ということになりますね」
崇剛とダルレシアンの精巧な頭脳の中で、0.01%のズレが生じる。常時ならば、少しの猶予はあるかもしれないが、今は命がかかっている時だ。見過ごすわけにはいかない。
崇剛はあごに指を当てて、
(そうですね……?)
ダルレシアンは左右に体を曲げながら、
(ん〜? ん〜?)
それぞれ考え始める。




