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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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Time of judgement/24

 魔導師が引いたタロットカードは二枚――正義と悪魔。ダルレシアンは春風が吹いたみたいにふんわりと笑った。


「邪神界の心を正神界に入れ替えたの。だから、相打ち」

「直感を使ったのですか?」


 千里眼の持ち主ははっきりとこの目で、直感を受けたのを見ていたが、ダルレシアンの聡明な瑠璃紺色の瞳は横へ揺れた。


「ううん、理論」


 魔導師の心の中では、ひらめいたやピンとはこなかった。順序立ててきちんと考えた末の攻撃魔法だった。


 矛盾している――。崇剛はそう思った。


「――その両方だ」


 戦場から引き上げてきていた、カミエが救いの手を差し伸べた。ラジュはニコニコしながら、おどけた感じで添える。


「ダルレシアンの言動を予測するのは難しいですね〜?」

「どのような意味ですか?」


 ゆるゆる〜と語尾は伸びているが、疑問形だ。崇剛は金髪天使が罠を張ってきているかもしれないと警戒しながら、聞き返した。


 その問いに、合気の達人――カミエが答える。


「ダルレシアンの気の流れは特殊だ。冷静な判断を下す頭の冷たい気の流れ、感情をつかさどる胸の意識がある。しかし――」


 ダルレシアンと崇剛の視線がカミエに集中した。


「ん?」

「えぇ」


 先を促されたカミエの白い袴は風に揺れる。


「崇剛は何度か見たはずだ。金の流れ星みたいな気の流れを」

「えぇ、そちらは直感と天啓の気の流れです」

「それは通常、胸の気の流れ――丹田に入る。だが、ダルレシアンは頭にある冷たい気の流れに直接入り込む」

「違いが生まれるのですか?」


 崇剛は冷静な水色の瞳を、また自分の爪を眺めているダルレシアンに向けた。カエミは目を細めて微笑む。


「そうだ。胸に入った時には、本人が意識をして考えを変える」

「『何となく』や『ひらめいた』、ですね?」


 ベルダージュ荘で何も知らず、息子と夕食の準備をしているだろう執事――涼介が言った言葉を、崇剛は思い出した。


「しかし、ダルレシアンは違う。直感したと同時に、理論に置き換えられる」


 カエミが説明を終えると、ラジュがあとを引き継いだ。


「勘と理論にはそれぞれ弱点があります〜。勘は素早い決断ができますが、はずれる時があります。理論ははずれることを少なくできますが、考えるので時間がかかります」

「つまり、どちらのデメリットもなくしたのが、ダルレシアンの気の流れということですか?」


 崇剛は聞き返しながら、手強いからこそ、手加減なしで策を交わせると思うと、優雅な笑みが一層濃くなった。


 水を得た魚みたいな崇剛を前にして、カエミはさらに目を細めた。


「そうだ。お前のいい修業になる」

「そろそろ崇剛には、次の段階に入っていただきたいと思いまして……うふふふっ」


 言うことは腹黒で無慈悲だが、ラジュは天使としての仕事をきちんとまっとうしていた。


「そうですか」


 崇剛はあごに曲げた細い指を当てて考える。ダルレシアンと過ごす日々の中で、どんな策が有効で、どうやったら魔導師に勝てるのかと。


「神も反則だというほどです〜」


 ラジュの邪悪なヴァイオレットの瞳は珍しくまぶたから解放されて、どんな隙も見逃さないように、ダルレシアンをじっと見ていた。


「ボクには普通のことなんだけどなぁ〜」


 魔導師としてはきちんと考えているのであって、決して勘ではない。濡れ衣と言っても過言ではなかった。


「直感がすぐに理論に置き換わる。だから、ダルレシアン本人に自覚症状はない」


 カミエからの説明は全て終わって、崇剛はシルクのブラウスの下に肌身離さずつけているロザリオを強く感じた。


「神からのギフトなのかもしれませんね」


 ダルレシアンの瞳は少し陰り、ついさっきまでいたシュトライツ王国でのたくさんの出来事を思い返し、少しため息混じりになった。


「贈り物か……。そういう考え方はやっぱりいいね」


 神は信じでいないと言っていたが、誰かの話は納得する柔軟性を、教祖は持っていたのだった。


「メシアの他にも、あなたには与えてくださったのですね?」

「崇剛もね?」

「そうかもしれません」


 荒れ果てた旧聖堂であっても、神の気配は感じ取れる。崇剛は同じ境遇の人物に出会えたことを、改めて心の底から感謝した。 

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