Time of judgement/22
そんなやり取りが、味方の本陣で行われているとはつゆ知らず、クリュダは化石にまだまだ夢中。敵に背中をトントンを叩かれたのに、振り返りもせず、
「ですから、待っていていただけますか? もう少しで見つかるかもしれないんです。もう少し掘ってみると出てくるかもしれません」
物腰低く断りを入れると、シャベルを動かして、まわりに幾重にも群がっている敵に武器代わりのものが当たり続ける。
「うわぁっ!」
「ぎゃあああっ!」
「ぐはっ!」
悲鳴が上がっては、魂が浄化されるがしばらく繰り返される。
クリュダは敵に囲まれているというのに、ボケという盾で無傷だった。しかし、これはラジュの策であり、地中に埋まっているはずもなく、クリュダの収穫はゼロ。
さっと立ち上がって、クリュダはひとり乱戦している戦場に静かに佇む。
「どちらにもありませんね。一度戻って、ラジュさんに詳しい場所を――」
その時だった。二百三十五センチもある背の高いクリュダの腰のあたりをトントンと叩かれたのは。
「はい?」振り向くと、誰かの手のひらが見え、
「こちらを差し上げます」
ひらひらとした四角いものが目の前に飛び込んできた。
「こちらはっ!」
クリュダは思わず息を飲んだ――
*
本陣では今度、ナールがピンチを迎えていた。
「大鎌戻ってこなくなちゃったね」
手裏剣みたいに投げていた武器は、手を大きく上へかかげても、うんともすんとも帰ってこなくなった。
腕組みしながら、シズキはバカにしたように超不機嫌に言ってのける。
「当たり前だ。何度も投げていたら、敵も戻るのを阻止してくるの決まっているだろう」
どんなことにも限界はある。抑え込む力が強ければ、天使であっても、自分に戻ってくる機能がついていたとしても、思い通りにならないのが世の常。
ナールは山吹色のボブ髪をけだるくかき上げ、街でナンパでもするように軽薄的に言った。
「そうね。じゃあ、こうしちゃう?」
パチンと指を鳴らすが、何も起きず、
「?」
シズキは油差しの効いていない人形みたいに、ギギーっと首を横へ傾け、銀の長い前髪が落ちて、両眼があらわになった。
ちょうどその時、敵の陣地で、耳をつんざくような女たちの悲鳴がにわかに上がった。
「きゃああっっ!?」
それと同時に、空中を飛んでくるのではなく、ナールの手元に大鎌がいつの間にか戻ってきていた。
「?」
シズキの首はさらに傾く。何が起きているのかわからなくて。
「よっ!」
ナールは力むような声を上げて、空中を真っ二つに切るように、大鎌を横向きで投げた。
シュルシュルシュル!
風を切る音がして、敵の体に容赦なく、大きな三日月形の刃物が切り込み、バタバタと人が無差別に倒れ、浄化されてゆく。
しかしやはり、ナールが手を大きくかかげでも、武器は戻ってこなかった。
改善すべき点は、武器を投げない方法ではないのか――。シズキはそう思いつつ、腕組みしながら戦場を眺めていると、敵は今度、何かを手にしたようだった。男がそれをじっと見つめる。
「何だ?」
すると、別の男の兵が興奮気味に吠えた。
「うほっー!」
「おい、見せろよ!」
「こっちもこっちも!」
戦闘中にもかかわらず、男どもが群れをなして、何かを見ているようで、その表情はみなニヤニヤしていた。
「?」
さっきからどうも何かがおかしいようで、シズキはさらに首を傾げた。その隣で、ナールは慣れた感じで、大鎌を手裏剣のようにして再び戦場を走らせる。
そうしてまた、武器は戻ってこなくなってしまった。
不思議がっているシズキとは裏腹に、ナールは絶好調で、右手を斜め上に向かって伸ばし、スーパーハイテンションで叫ぶ。
「はい、次です!」
パチンと指を鳴らすと、ガラスの破片が突き刺さるような鋭い悲鳴が幾重にも轟いた。
「きゃあぁぁっっ!」
「何これ!」
喜んでいる感じではなく、まるで不気味なものにでも出会ってしまったような驚き方に、シズキには見えた。




