Time of judgement/21
俺様天使などはさて置いて、ラジュはニコニコの笑顔で平然と、
「えぇ、嘘はついていませんよ〜?」
クリュダが目を輝かせると、オレンジ色をした柔らかなウェエーブ髪が狂喜乱舞に動いた。
「それは、すぐに行かなくてはいけません!」
霊力で愛しの土偶を寝室へ瞬間移動させ、再び右手にシャベルを出現させて、熱にうなされたような叫び声を戦場の隅々に響き渡らせ、
「ガステガ〜〜〜〜!!!!」
敵陣の真ん中へ、盲目以外の何者でもなく、情熱を胸に走り出していった。
去ってゆく二百三十五センチのガタイのいい背中を眺めたまま、武器使用をさけたがる金髪天使――お姫様のナイトと化しているシズキは鼻でバカにしたように笑った。
そうして、隣に立っているトラップ天使を射殺すように見据える。
「ラジュ、貴様、今度は何を置いてきた? いくら貴様でも、クリュダの無駄足になることはしないとわかっている」
「クリュダが見つけてくるまで、お楽しみということです〜。うふふふっ」
邪神界へスパイに行った成果のひとつは、笑いという策を抜け目なく張ることだった。ラジュの不気味な含み笑いが戦場に、オチという匂いをひどく漂わせながら怪しげに舞った。
*
猪突猛進の如く、クリュダは武器ではなく、シャベルだけで進んでゆく。本人に敵をなぎ倒すつもりはなくても、化石にたどり着きたいがためにガムシャラで、敵は巻き込まれて地獄へと送られ続ける。
そうして、無傷で邪神界軍の中央へやってきたクリュダだった。背中同士を向ける、戦場にはなかなかない布陣。危険極まりないが、化石に気を取られ、聖戦争の真っ只中だということもすっかり忘れている。
ここだと思われる場所を、クリュダはシャベルを使って、お目当てのものを傷つけないように慎重に掘り始めた。
「こちらでしょうか?」
聖なる白いチャイナドレスはふと前かがみになり、地面に手を当てる。シャベルを後ろへ下げると、ちょうど近づいてきた敵の腹に、持ち手が激突。
「うぎゃ〜っ!」
断末魔など、遺跡バカには聞こえておらず、
「こちらにはありませんね」
地面を大きな手で触り、片足を軸にして真正面を向いた。敵の足がたくさん見えているにもかかわらず、そこは都合よく削除。クリュダの蒼色をした瞳には地面だけが映り込んでいた。
「あちらでしょうか?」
さっと立ち上がり、立派な両翼で移動しようとすると、後ろから敵の手が肩を叩いた。
しかし、化石に夢中のクリュダは正面を向いたまま、その手に自分のそれを添えて引っ剥がす。
「少々待っていただけますか? 今、発掘作業で忙しいので」
すっと瞬間移動し、敵陣真っ只中にまた現れ、クリュダひとりが武器も持たずに踏み込んできた。
邪神界側はみな、ぽかんとした顔をするが、地面しか見えていないクリュダは素早くかがみ込み、シャベルで掘り始めると、近づいてきた敵の腹に都合よく当たった。
「ぐわぁっ!」
本人が知らないところで、魂はまた浄化。しばらく慎重に掘っていたが、ふと手を止め、クリュダは首をかしげ、真剣な面差しになった。
「こちらにもありませんね。おかしいですね、場所は間違っていないと思うんですが……」
*
人とは違い、はるか彼方まで見渡せる天使の瞳。ラジュはにっこり微笑みながら、女性的な金の髪を風で揺らす。
「素晴らしいですね、クリュダは。発掘作業に夢中になっていて、本人が知らないうちに、シャベルの手持ち部分で邪神界の者を次々に倒しています〜」
鋭利なスミレ色の瞳には、あちこち向きを変えて、シャベルで地面を掘り起こすたび、敵にそれがギャグみたいに当たり、地獄へと送られてゆく様子が映っていた。
「クリュダのやつ、武器よりシャベルのほうが有効的とはな、何とも滑稽だ。この戦いで武器を使わないつもりか?」




