Time of judgement/15
魔法だけで倒し続けている崇剛は、ラジュとシズキの会話を考える。
間違った人……。
嘘をつくためについている……。
正しい人に送ったという可能性が出てくる。
シズキ天使が戻らなかった理由……。
寝室のドアを開けてきたことが必要になるという可能性は38.79%から上がり、78.99%――
崇剛の神経質な顔は、物質界の崩れた建物の隙間からのぞいている雑木林へとやられた。
「あちらの方がこちらへいらっしゃるみたいです――」
振り返った衝動でターコイズブルー後れ毛が頬に艶やかに絡みついた。
*
シャーン!
透き通るような鈴の音が浄化するように響き渡った。
砂糖菓子に群がるアリのような敵たちが、「うわぁぁっ!」と悲鳴を上げて、あたりに竜巻でも起きたかのように吹き飛ばされた。
「力任せの攻撃には負けないっすよ!」
粋な声が響くと、ゆっくりと回転を止めながら、アドスが中央に白い修験者の服装で立っていた。
金の錫杖を手にして地面を叩くと、シャーンと全てを清めるように鈴が鳴る。大柄な天使の武器は槍のようなもの。あちこちから様々な武器で襲いかかる敵を、船を漕ぐ櫂のように、錫杖を地面と水平に持ち、
「ふっ!」
相手の武器を叩き落とし、体を振り払う。時には、体の前で横にしっかりと構えたまま、敵軍にそのまま突進してゆく。まさしく力技だった。
「うわぁっ!」
何人で束になってかかっても、アドスの体はびくともしない。
「そんなもんすか?」
拍子抜けしたみたいに言ってのけると、邪神界の敵は顔を真っ赤にして、怒り狂った。
「何だと!?」
力の競り合いを起こして、止まっているアドスに、容赦なく他の敵が襲い掛かろうとする。
「んっ!」
十人ほどの敵に押さえ込まれていた錫杖で相手を弾き返し、槍を振るうように武器を振るい、
「うわっ!」
杭のように尖った先で、容赦なく敵を突き刺す。
「ぎゃああっ!」
武器を持つ手をそのままに片足で立ち、後ろへ蹴り上げるようにして、敵の腹めがけて、アドスは手慣れた感じでキックを背後にお見舞いする。
「手足は存分に動かして戦うっす。足元がお留守っす!」
錫杖の金の光は地面近くを猛スピードで横滑りし、美しい線を描くと、敵の足にあたり、次々とドミノのように順番に倒れ始めた。
「うっわぁ!」
「いつっ!」
敵の足元を攻撃することに集中しているアドスの背中に、人影がふと立った。大きく刀を振りかざし、天使の魂を打ち砕こうとする。
武器が振り下ろされる寸前で、アドスは得意げに微笑んだ。
「罠っすよ!」
そう言うと、両足で地上を強く蹴り、バック転して、自分を包囲する敵の背後に両腕でバウンドし、そのあとも調子をつけて、またバック転で今度は足で着地。
まるで川面を飛び石がぴょんぴょんと跳ね上がるように、アドスはあっという間に離れ、運動神経抜群な天使だった。
「何っ!?」
敵たちがワンテンポ遅れて振り返ると、アドスは錫杖を地面に真っ直ぐと突き立て、器用なことに、その上に一本足で立っていた。
「頭も使うっす!」
敵は悔しそうに歯軋りしながら、怒りに任せ追いかけてきた。
アドスは一人、錫杖の上から邪神界を見下ろす。武器をそれぞれ携え、前かがみに構え、潰れた五重塔のような敵の姿勢を前にして、宗教バカは勝ち誇ったように言う。
「その腕の使い方は間違ってるっす!」
ハッとして、敵は自分の腕をぴんと伸ばしたり、持ち替えたりする。
「見た目の話じゃないっす。肩甲骨を使うっすよ?」
全員振り返って、自分の背中を見ようとした。
アドスの瞳がきらっと光った気がした。今が好機――。
器用にも、錫杖の丸みのある鉄部分からひょいと飛び上がった。槍のような武器が倒れる前に、アドスの体は横へ回転し始め、ボールをキックするように片足を前へ出し、足で錫杖を蹴ると、方位磁石の針が定まらずにくるくる回るようなスピードで、無防備に立っていた敵をなぎ倒し出した。
「うぎゃっ!」
「ぐふっ!」
次々に敵が遠くへ飛ばされてゆく。その姿を、天色の純粋な瞳に映しながら、紫の短髪が風力でサラサラと揺れる。
「己を最大限に活かして戦うっす! そうじゃないと、相手に失礼っすよ」
さっきまでのやんちゃな好青年の雰囲気は息を潜め、武者として真剣な眼差しを、アドスはしていた。




