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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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Time of judgement/12

 武器を片手にした敵が前方で斬り込み続けている。敵は一気にカミエを襲う算段で、文字通り背水の陣で退路まで絶たれた。


 しかし、武術の達人にとっては、よくある戦況で、呼吸も乱れることなく、過去も現在も未来も関係なく、カミエは淡々と戦法を変更した。


 地面を介して、合気をかける。

 相手の呼吸と合わせる。 相手の操れる支点を奪う。

 正中線上で、円を描く。

 合気――!


 意表をつく形で迫ってきた、敵ふたりがカミエに斬りかかろうとする。合気の達人は振り返ることも、触れることもしない。


 それなのに、背後から迫ってきていた敵は悲鳴を勝手に上げた。


「うわっ!」

「うぅっ!」


 敵がバック転するようにふわっと宙で回り、その様が水面に落ちた滴の跳ね返りのように王冠の反り返りのカーブを描く。まるで芸術だった。


 綺麗にふたり同時に、地面に強く叩きつけられ、砂埃が舞い上がる。


 この正神界の天使は生半可な技では倒せない――。敵勢は全員そう思った。


 触れもしなければ、見もしない。圧倒的な力の差を目の当たりにした。何をどうすれば、遠くにいる敵を素手で倒すのだ。


 だからと言って、引き下がるわけにはいかない。四天王の元で戦っているのだから。この戦いで功績を挙げれば、地位と名誉は約束されている。


 敵はカミエをにらんだまま、ジリジリと横へ忍足で行ったり来たりする。


 そうしてまた、敵との間合いが一気に崩れた。


 一点集中――。


 四方八方から我先にやってくる敵に触れて、次々に空中で一回転させて、カミエは地面に叩き落とす。呼吸ひとつ乱さず、一歩も動かず。


 武道家は心の中で、日々の修業の成果を復唱する。


 描く円を小さくすると、早く回せて、敵にも打撃を強く与えることが出来る。

 触れたまま――相手の支点、すなわち重心を自分が奪っている以上、効果は続く。

 その間は、相手の思考と動きは封じられる。

 そのために、倒した相手は自分の近くへ叩き落とす。


 ひとり倒れた上に、もうひとり重ねられる。地面よりも人の体は柔軟で、同じ衝撃を得るには一回転させる力が多くいる。すると当然、ひとりを倒すのに時間がたくさん要求される。


 カミエの戦い方は自然と、敵を交わすように払い、ヨロヨロと脱力させる戦い方へと変わっていった。


 山のように、敵が白い袴のまわりに積み上げられてゆく。絶対不動という落ち着きで、同じ作業を淡々と続けてゆくカミエ。


 正神界の天使はひとり。数では邪神界のほうがまさる。しかも、無謀にも敵の陣地近くに入り込んでいる、日本刀を腰に挿した白い袴姿の侍。


 攻め込めば勝てると、敵は信じ、次々に走り込んでくる。カミエはそれを無感情の瞳に映したまま、素手で戦い続ける。


 だが、今は敵の数が多い。

 触れていることが困難になってくる。

 その時は、敵と敵をくっつける。

 すなわち、上に積み上げてゆく。

 そうすると、合気がかかっている時間がそれぞれが共鳴し合い、延長される。


 カミエの倒した敵の数はすでに百人越えしていた。地面に積み上げられている敵は、何が起きているのかわからない。呼吸をするのも苦しい。


 それはみな、カミエに主導権――意識を奪われているからだった。


 しかし、やはり無理があった。カミエの白い袴の袖を敵のひとりに捕まれた。ぐらっと、武道家の視界が揺れる。


 好機とばかりに敵が一斉に寄ってきて、カミエは胴上げされるように持ち上げられてしまった。


「っ!」


 腕も使えない。地面に足もついていない。


 万事休す――


 綺麗に晴れ渡る霊界の青空が眼前にどこまでも広がる。拘束されたのと同じだったが、カミエは慌てるでもなく、揺るぎない落ち着きで、体の隅々にまで神経を研ぎ澄ます。


 触れていればかかる。

 背中――

 全員の呼吸に合わせる。

 全員の操れる支点を奪う。

 円を描く。

 合気――


 技が発動されると、建物の柱が一斉に向き取られたように、敵全員が地面に総崩れになった。


「うわぁぁっっ!」


 カミエの体は地面近くまで自然とずれ落ちて、草履の足は荒野へ何事もなかったように立った。


 襲いかかる敵の手に触れては、体の気の流れを使って合気をかけ、自分の近くへ敵を積み上げてゆくを繰り返す。


 倒しても倒しても、増え続ける敵勢。

 

 合気は護身術だ。

 何か他の打撃系の技を使わんと、敵は本当に倒せん。


 魔法のような武術だが、やはり弱点があった。次々と敵が手をかけてこようとする。休む暇がない。


 数が多過ぎる。

 日本刀が抜けん……。

 このままでは、倒した敵の合気が解ける……。


 カミエはそれでも、刀でばっさりと切るように焦りを切り捨て、ひとり敵に立ち向かう。


(右。左。左後ろ。左。右。前方……)


 山積みに倒れた敵たちに囲まれた、白い袴姿の男が荒野に佇む。一点集中のカミエの弱点が見え始めていた。

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