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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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Time of judgement/10

 ダルレシアンにはその光景を見ることはできなかったが、何が起きたのか手に取るように――彼が予測した通りのことが実現していた。


 旧聖堂の崩れ落ちた壁の隙間から吹いてくる秋風に、白いローブが揺れ、ラピスラズリをはめ込んだ金色の腕輪が、勝利を祝うようにきらめく。


「いい戦い方だね」

「ありがとうございます」


 大量の敵が倒れ込んだ戦場は、土煙が激しく上がっていた。魔導師に衝突させられた敵が石垣となり、後から進軍しようとしていた軍勢がどよめきの声を上げながら、右往左往する様が崇剛にはよく見えていた。


 規則正しく響いていた足音は消え失せ、混乱している人々の声が風に乗って、ダルレシアンの耳に入り込む。彼は悪戯が成功したみたいに、ぺろっと舌を出した。


「ボクたちは無傷で、敵は大打撃かも?」


 人間ふたりで敵を一気に倒してしまった崇剛とダルレシアンの元へ、ラジュが瞬間移動ですうっと現れた。


「おや? 浄化ですか〜?」


 天使が右手を上げると、敵は次々と浄化されていき、自動で地獄へ送られる。


 崇剛の茶色いロングブーツは一歩も動くことなく、隣にいる魔導師に話しかけた。


「しばらく、こちらを続けましょうか?」

「敵にタイミングを図られるまでは、とても合理的だね」


 戦場の混乱が収束する前に、崇剛とダルレシアンの協力攻撃は何度も続けられた。


    *


 メシア保有者より少し離れたところで、白と朱を基調にした巫女服ドレスは、蛍火のような緑色の光を、ゆらゆらと天へ炎が燃え上がらせながら立っていた。


 瑠璃は神経を集中させ、


「願主、瑠璃!」


 顔の前で手を打ち鳴らし、邪気を払った。聖女の百年の重みを感じさせる少女の声が響き渡る。


「急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう! 悪霊退散!!」


 漆黒に長い髪がベールのようにふわっと浮き上がると、緑の光に包まれた札がいくつも飛び交い、敵の額へ向かって生きているように宙を滑っていき、ピタッとくっつき始めた。


「うわぁぁっっ!」

「ぎゃあぁぁっっ!」


 散らすことしかできない札。敵は整列を乱し、横へよろけたり、後ろへ押し返されるだけ。聖女のこめかみにヒヤリと汗が流れ落ちそうになる。


 その時だった。凛とした澄んだ女性的な男の声が、おどけた感じで戦場に割って入ったのは。


「おや? 瑠璃さん、こんなに散らしたんですか〜?」


 金髪天使――ラジュは、まるで教子の成長を喜ぶ教師のような笑みをしていた。


「まあの」興味なさそうに返事をして、瑠璃は文句を言う。「お主、先に説明しておかぬか。我が散らした邪気をどうするのかと心配しておったぞ」


 聖女の突き放すような反応など、ラジュには蚊に刺されたようなもので、瑠璃を愛おしそうに見つめる。


「成長しているんですね〜、瑠璃さんは。それではご褒美として、生き残れた暁には、私があごクイをして差し上げましょうか〜?」


 二言目はいつも、口説き文句の戯言天使。瑠璃はその場で地団駄を踏んだ。


「じゃから、いつも申しておるじゃろう。お主など眼中にないわ!」


 ニコニコと微笑む金髪天使の前で、憤慨している聖女の図はいつものことだった。


 しかし、邪神界の軍勢から、女たちの黄色い悲鳴がにわかに巻き起こった。


「ラ、ラジュ様のあごクイがっ!」


 ラジュマジックの効果は、敵味方関係なく戦場をどよめかせた。


 瑠璃はそんなことよりも、小さな腕をツルペタな胸の前で組み、難しい顔をする。


「お主の申すことはよくわからぬの。あごクイとは何じゃ?」


 乙女用語に弱い、八歳の少女だった。


 策士の天使は意味ありげに微笑む。トドメをさせないようにするための、聖女の殿しんがり――撤退する策なのだと思いながら。


「うふふふっ。それでは、頃合いを見計らって、またきますよ〜」


 緊迫感のまったくない、ゆるゆる〜とした語尾で言い残すと、ラジュは元の位置へと瞬間移動で消え去った。


 敵軍から、常軌を脱している名残惜しそうな叫び声が次々と上がる。


「きゃあ、ラジュ様〜!」

「私も浄化して〜!」


 その場で、バタバタと女たちは気絶し始め、敵兵の男たちは何が起きているのかわからず唖然とした。何の攻撃もしていないのに、浄化されてゆく敵の女たち。


 瑠璃は間近で見て、妙に感心する。


まことだったとはの。ラジュは本に何の策を張っておるのじゃ?」


 あごに指を当てて優雅に佇んでいた崇剛は、地獄へと送られてゆく女たちへ、冷静な水色の瞳をちらっとやった。


「噂は本当だったみたいです。どのような罠を仕掛けているのでしょうか?」


 しかし、どうやってもおかしな光景で、崇剛はまたくすくす笑い出した。


 あの無慈悲天使ときたら、次から次へと、崇剛を笑いの渦へ突き落とすようなことを、ニコニコしながら仕掛けていって、まったくシリアスにならない。

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