Time of judgement/3
ナールは少し背伸びをして、遠くを眺める。その視線の先には、シャベルを振り回しながら、敵陣をもろともせず、一番奥までど真ん中を突っ切っていこうをする、クリュダのガムシャラな姿があった。
「でも、なかなかいい感じじゃん」
曲芸でも見ているように眺めている、アドスも同じものを見ていた。
「そうっすね。シャベルの持ち手で敵をなぎ倒して、一人で進んでるっす!」
バカもここまで行くと、見事なまでに無敵だ――。シズキは鼻でバカにしたように笑う。
「武器でないもので倒すとは、何とも皮肉だな」
「重心のズレを少し直すと、もっとよく倒せるかもしれん」
地鳴りのように低い声で、カミエの指摘が聞こえてきて、シズキはまた鼻で笑った。
「貴様、本当に修業バカ――」
シズキが最後まで言い終わる前に、ラジュは右手を高々と上げ、後ろにまだ控えている味方に大声で言ってのけた。
「みなさ〜ん、クリュダが犠牲になって、突破口を開いてくれましたよ〜」
無慈悲にもほどがあると、味方勢は思ってあっけに取られたが、ワンテンポ遅れて進軍し始めた。
*
その頃、当の本人――クリュダは、
「すみません。通していただけますか?」
敵兵でごった返す陣の真っ只中を、腰を低くして進んでいた。
ナスカの地上絵があると言われたものだから、蒼色の瞳は地面ばかりを見ている。持っているシャベルの持ち手が、見る方向を変えると、見事なまでに敵の兵にぶち当たった。
「うわっ!」
ついでに天使の浄化する力は健在で、敵がひとり地獄へと送られる。
しかし、クリュダはそんなことにはお構いなしで、丁寧な物腰で進軍してゆく。
「申し訳ありません。先に行きたいので、少々失礼します」
反対にシャベルが向き、敵がなぎ倒されてゆく。
「わぁっ!」
「ぐがっ!」
クリュダに戦っている気はないのに、敵を浄化している戦況に、他の人たちから驚きや感心した声が上がる。
見えないながらも、さっきからそれを聞いていた、ダルレシアンは春風のように微笑む。
「ふふっ。面白いね、天使たちは」
じっと黙って見ていた聖女は、扇子のような袖口を組んで、あきれた顔をしていた。
「お主ら緊張感がないの。五十万の兵がおるのにの」
真剣身のない戦い方。敵ばかりにダメージがあるように思えいていたが、瑠璃は傍に立っていた瑠璃色の貴族服を着た男が今どんな被害を被っているか言ってやった。
「それにの、崇剛が戦闘不能になってるがよいのかの? さっきから黙っておるからおかしいと思っての、今見たらの……」
紺の長い髪とターコイズブルーのリボンが揺れているが、それはどうも別のことで動いているようだった。
「何……!!」
全員が視線を集中させると、崇剛が神経質な手の甲を中性的な唇に当てて、肩を上下に小刻みに揺らしながら、何も言えなくなり、彼なりの大爆笑をしているところだった。
「…………」
(おかしい……です)
笑いの渦がいつもの比ではなく、崇剛は前にかがみ込むようにして、まだまだ笑い続け、平常心という言葉がどこかへ行ってしまったようだった。
その時、ラジュのニコニコの笑みが画面いっぱいになり、
「それでは、ご覧のみなさ〜ん!」
カメラ目線でバイバイと手を振り出した。
「主人公の崇剛が笑い死にという形で、『心霊探偵はエレガントに』シリーズは今回限りで終了です〜、うふふふっ」
画面が暗くなり、エンディングテーマの温和なピアノ曲が流れ始めた。下から、白字のキャスト名が迫り上がってくる。
崇剛 ライハイアット/光命
ダルレシアン ラハイアット/孔明
瑠璃 ラハイアット/桔梗
ラジュ/月命
カミエ/夕霧命
シズキ……
最後までエンドロールが流れると、
=おしまい=
音楽は鳴り止み、画面が真っ暗になった――




