Before the battle/8
最後が少々うまくいかなかったが、
「――です。従って、私とダルレシアンに邪神界の目を引きつけておいて、別の大きなことが正神界で動いているという可能性が98.98%です」
「全問正解です〜」
パンパカパ〜ン!
というファンファーレが鳴り、いつの間にかくす玉が用意されていて、ラジュが紐を引っ張ると、金銀の細長い紙がスルスルと落ちてきて、
『大当たり!』
と赤で書かれた白い半紙と同時に紙吹雪がヒラヒラと舞い降りてきた。
これ以上は霊の瑠璃も教えられていない。極秘にされたまま、七ヶ月近くの時が過ぎ、国がひとつ滅び、新しい政治形態となった。
死ぬ可能性がある場所へと連れてこられた崇剛は、のどの渇きをまるで潤すかのように手を伸ばした。
「本来の目的はどちらなのか教えていただけますか?」
「えぇ、構いませんよ〜」
ラジュがうなずくと、無感情、無動のカーキ色の瞳を持つ、カミエの地鳴りのような低い声が事実を告げた。
「地獄のシステムを総入れ替えしている」
器用さが目立つ手で、ナールは山吹色のボブ髪を大きくかき上げた。
「脱獄者すごかったからね。毎日、いたちごっこ」
天使もさぞかし手を焼いただろう。全員があきれた顔をしていた。その中でもひとりだけ、にっこり微笑んでいるアドスが粋よく言う。
「逃げると罪は重なるっすから、神さまが対策を取ることになったっす」
「百次元上から最新式の地獄を引き下ろして、ゴミクズどもを神の前にひれ伏せさせる」
シズキの俺様ボイスが響くと、崇剛はなぜか冷静な水色の瞳をついっと細め、ナールをそっとうかがった。
見られている天使はどこまでも無機質で、アンドロイドみたいに無表情だった。
そうして最後に、優しさの満ちあふれた蒼色の瞳で、にっこり微笑んだクリュダが、
「これで、みなさんがきちんと反省できて、幸せになりますね」
いい連携プレイで話が締めくくられたところで、ラジュに主導権は再び回ってきた。
「ですが、完全に終わらないうちに、邪神界側が軍をそろえてしまいました〜。ですから、戦わなくてはいけません」
きな臭い――下世話な言葉ではそう言うのだろう。崇剛は神経質な指をあごに当て、腰元のダガーの重みを感じた。
(おかしい……)
天使には人間の考えていることは丸聞こえだ。それを崇剛は逆に利用する。少し待ってみたが、誰も異議を唱える天使はいなかった。
まだ明らかにされていない不確定要素を含んだまま、天使たちは全員素通りした。
天界にいたラジュたちは崇剛とダルレシアンの前へすうっと降臨する。
ラジュは相変わらず何を考えているのかわからないニコニコの笑みで、神の御心を唱えた。
「神はマキャヴェリズムです。Aを取ると千人生き残る。Bを取ると千一人生き残る。邪神界――悪が存在している以上、どちらか一方を取らなくてはいけない場面に出くわします。神は迷わず、Bの千一人を取り、Aの千人を切り捨てます。私たちは囮です。全員が消滅する可能性があります。ですが、それさえも神の戦略です。崇剛とダルレシアンはどのように思いますか?」
自身の知らないところで改革に組み込まれ、それが本当の死――魂の消滅をもたらすもの。
崇剛はいつも通り優雅に微笑み、シルクの生地の上から銀のロザリオを握りしめた。
「神の手足になれることに感謝いたします」
切り捨てられるAの千人になれるのは、神父としてはこれ以上のない喜びだった。
神の存在など信じてもいなかったが、聞こえてくる話には当たり前に、天使や神が登場する。
そうなると、ダルレシアンの中で、天使や神がいるという数値は一気に跳ね上がった。そんな教祖は、どこまでもクールに言ってのけた。
「ボクは、そのBの千一人になれる方法を模索するよ」
この男はやはり面白い――。
水色の瞳はついっと細められ、過去に囚われがちな崇剛には盲点の可能性だった。
ラジュは満足げに微笑み、その隣にいる巫女服ドレスの少女の名をいつもと違って呼び捨てにした。
「瑠璃。あなたはいかがですか?」
「我も構わぬ」
百年の重みを感じさせる幼い聖女の声がずしりと尖った。
一蓮托生だ――。瑠璃はそう思う。




