表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
695/962

Before the battle/5

「ちょうど目の前で切れたっす。なかなかないんすよ? トカゲのしっぽ――」

「ひゃっ……!」


 妙な声をもらしたシズキに、全員の視線が一斉に向けられた。


「?」


 黒く紐状の冷たいものを、毒に侵されたように慌てて投げ捨て、


「ひっ、ひゃあああ〜〜っ!」


 雑木林どころか天まで突き抜けるような、シズキの悲鳴が轟いた。


 さっきからやり取りを黙って見ていたカミエが、あきれたようにため息をつく。


「アドスまた、シズキに渡すな」

「シズキ、昔から潔癖症だからね。汚れんのやなの」


 ナールはしゃがみ込んで、トカゲのしっぽをあちこちから眺めた。


「それにしても、これ、マジですごいね。初めて見たよ、運命感じるね」


 ラジュは人差し指をこめかみに突き立てて、顔を珍しくしかめる。


「困りましたね〜。人員がひとり減ってしまいます〜」


 さっきまであんなに落ち着いていて、俺様で完璧だったシズキ。銀の髪を激しく揺らす、手のひらから全身に毒が回っていくことに耐えられないように。


「……が、我慢できない……」


 スミレ色の両目があらわになったことなどどうでもよく、


「俺のこの神聖な手に動物の死骸が触れるなど!」


 その場で左右に回って戻るを、忙しなく繰り返しながら、


「で、出直さないと……こ、このままじゃ……お、思い出したくもない、とてもじゃないが神の意志をまっとう出来ない……」

「一分で戻ってきてくださいね〜? 戦いに間に合わなくなります」


 ラジュが忠告すると、シズキはすうっと消え去った。天界へ戻り、全身を綺麗に洗うために。


「面白い天使だちだね」


 ダルレシアンは春風のようにふんわりと微笑んで、


「難儀な性格じゃの」


 唯一女性である瑠璃の声が響くと、旧聖堂の中へ全員入っていった。


    *


 昼間なのに異様なほど薄暗い旧聖堂。


 壁掛けの燭台は全て壊れ、埃の妖精があたりをうろついていた。


 いつもはひとりやふたり浮遊霊がいるのに、まるで何か大きな力に怯えるようにひっそりと息を潜めていた。


 白く濁った大理石の上で参列席たちは、崩れ落ちた天井であちこち行き止まりになっている。身廊の奥にある祭壇もステンドグラスも、長い年月の放置の末に神聖も荘厳も死語だった。


 そこに、八名の様々な人々が、それぞれの出立で顔をそろえていた。


 崇剛 ラハイアット。

 壊れかけた古い木のすぐ前にある身廊に、細身をさらに強調させるように、足を左右にクロスさせる寸前のポーズで佇んでいた。

 優雅に微笑んでいたが、冷静な水色の瞳はいつにも増して、瞬間凍結させるような猛吹雪のように冷たい。


 その隣には、ダルレシアン ラハイアット。

 漆黒の長い髪を頭高くで結い上げ、縄状の金の髪飾りが勇しくありながら、クール。

 聡明な瑠璃紺色の瞳は、崇剛と同じように世界の果てまでも凍らせそうだが、春風のようにふんわりとした微笑みが、策士らしくつかみどころがない。

 人がふたり――。


 瑠璃 ラハイアット。

 白と朱を基調にした巫女服ドレス。白いブーツのかかとをそろえ、片足にだけ体重をかける。漆黒の長い髪は、霊界を時折り吹いてくる風に静かに揺れていた。

 あどけなさを感じさせる少し丸みの帯びた頬だが、百年の重みがより一層深い。 幽霊がひとり――。


 そうして、彼らの上空に天使が六人――。

 カミエ。

 深緑の短髪。無感情、無動のカーキ色の切れ長な瞳を持つカミエ。上から吊るされているようにすうっと立ち、風にはためいている真っ白な袴姿だけが唯一動いている――絶対不動。


 シズキ。

 綺麗に整え直してきた銀の長い前髪に、右目だけがいつも通り隠れていた。重厚感があるが、白いロングコートの裾が風で揺れるたび、見え隠れするロングブーツ。

 完璧と言わんばかりに、足を左右にクロスさせ、腹のあたりで組んでいる細い両腕。


 ナール。

 山吹色のボブ髪の隙間から見える、印象的な赤い目。白いジャケットに細身のズボン。フラットシューズ。

 生命というものが感じられない、無機質な天使はナルシスト的に微笑む。それなのに、全ての人々を平伏させるような威圧感が、神羅万象の皇帝みたいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ