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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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Time for thinking/9

 そこで――


 さっきから体の内で鳴り続けていた、ラフマニノフ 楽興の時 第四番 ホ短調 プレストは高音のフォルティッシモでカーンと天まで飛び跳ねるような終止符を書き綴り、恩田 元についての事件検証に一旦ピリオドを打った。


 白と朱の巫女服ドレスを着た瑠璃は玉露を味わう。瑠璃色の貴族服に身を包む崇剛はサングリアのグラスを優雅に傾ける。


 少し勢いの弱まってきた春雷の光と音は、遠くへ行きかけているように、時間差で空に響いた。


 束の間の休息に神父と聖女は浸る――


 ふたりは自分の髪を何度か手で払いのけたり、耳にかけたりするのを繰り返していた。


 カラになったワイングラスと湯呑みが、同時にローテーブルへ置かれると、聖霊師はもうひとつの事件へ手をかけた。彼の心の内で新しいピアノ曲が流れる。


 ショパン 革命のエチュード。


 絶対命令を出す楽譜に書き記された、フラット、シャープ、ナチュラルの記号たちが、変幻自在に奏でられる曲調。


 独特のリズムを刻む、フォルテとピアニッシモの乱打は、今の雷に似ていた。いきなり遠くの空へ落ちたかと思えば、今度は近くへ落ちる。


 次々に空から大地や建物を射すように落ちてくる力強い線を描く、雨の重なり合いを表すようなスラーでつながれた高低音を疾走する十六分音符。


 不規則な春雷とピアノの音はアバンギャルドでありながら、いい緊張感で神父と聖女を包み込んだ。


 ピアノの音色に酔いしれながら、茶色のロングブーツの細い足は優雅に組み替えられた。ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンで彩られたシルクのブラウスの袖口は、膝の上に寄せ集められる。


 それでは、次に移りましょうか。

 別の非常に大きなことが起きているという事実……についてです。

 本日、四月三十日、土曜日、十二時十五分一秒過ぎ――

『ラジュ天使はどちらにいらっしゃるのですか?』と、私はカミエ天使に聞きました。

『ラジュは今、シュト――!!』と、カミエ天使はおっしゃいました。

 次の話の内容は、厄落としについてでした。

『そちらを、他の言語で表したら、どのようにおっしゃるのですか?』と、私は聞きました。

『Escape from evil』と、カミエ天使はお答えになりました。

 シュトで始まる場所もしくは国の名前、さらに英語圏……。

 これらの情報と合致するものが、今まででふたつあります。

 ひとつ目は――、

 こちらの屋敷は二百五十三年前。

 当時の有名な建築家だった天都あまつ レオンが建てています。

 姓は天都でした。

 しかしながら、百九十三年前――。

 シュトライツ王国出身、ガルデリア ラハイアットと婚姻関係を結び、姓がラハイアットになったのです。

 ふたつ目は――

 四月二十九日、金曜日の新聞。

 『シュトライツ王国、民衆による暴動が勃発』の記事です。

 従って、シュトライツ王国で、別の非常に大きなことが起きているという可能性が出てきます。

 そちらは、私たち人間の想像を超えることであるという可能性が79.28%――

 なぜなら、暴動を起こすだけの多数の人たちの守護する者までも関わっているという可能性が99.99%――だからです。


 物事はいつも偶然な顔をして近づいてきて、必然だと告げてゆくのだ。三つの情報の羅列。策略家は当然そこに何らかの可能性を導き出した。


 国家規模での出来事。人ひとりでどうにかできる問題ではない。霊界と物質界の天変地異が臭い出る事件の予感だった。


 聖女の意見を聞きたいものだと、崇剛は再びただ待った。すると、


「その話の真相は我にもわからぬ。何かちょこまかとやっておる気がするのだがの……。カミエからも聞き出せなくての。ラジュは戻ってこぬし……」


 常世の住人である霊にも知らされていない出来事。規模は自然と、天使レベルへと引き上げられた。


「そうですか」


 崇剛はただの相づちを打って、素早く情報を整理する。


 守護霊の瑠璃も知らない……。

 情報漏洩を避けるために、極秘にされているという可能性が出てくる。

 そうなると、人の想像を超えることであるという可能性の数値は上がり、99.99%――

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