表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
630/962

Time for thinking/4

 サングリアの柑橘系の香りが、聖霊師の臭覚と味覚の両方へ酔いという甘美な刺激をもたらす。


 まずは、恩田 元が見ている過去世の夢です――

 こちらの筋が通る順番は以下の通りです。

 一.うめき声と悲鳴が、男性と女性の声の両方で、複数聞こえてくる。

 二.悲鳴と断末魔が、男性と女性の声の両方で、複数聞こえてくる。

 三.血の匂いがした。

 四.血で視界が真っ赤になる。

 五.『いい……だ」と言った。

 こちらまでが過去世の記憶であるという可能性が76.56%――


 サングリアを一口飲んだ。水色の瞳の端では、聖女が桃色の湯呑みへ小さな手を伸ばし、少し不味な玉露を口にしている姿があったが、


「…………」


 瑠璃は何も言葉を発しなかった。


 イコール、事実として確定、100%――


 この作業がこの先、何度となく繰り返される。


 茶色のロングブーツは優雅に組まれ、元の夢を整理し続ける。


 六.『返して……』と言われる。

 七.自分自身が斬られる。

 八.体をつかまれる。

 以上が正しい順番であるという可能性が99.99%――

 これらから導き出せること、そちらは……。

 恩田 元が過去世で複数の人間を殺し、恨みなどをもたれ、他の人たちが自分たちと同じ目に遭わせようとし、恩田 元自身が斬られるという夢を、悪霊によって見せられたという可能性が87.96%――


 鉄槌を喰らわすかのように、ドガーンと雷鳴が地鳴りをともって背後から襲ってきた。しかし、聖女の小さな唇からは何も聞こえなかった。


 事実として確定――


 床につけたままの片足で反動をつけ、ロッキングチェアを心地よく揺らす。冷静な水色の瞳は閉じられ、昼間、三沢岳で見た転落事故、三件へと迫った。


 恩田 元の一番目の妻――真里。没二十三歳十ヶ月。

 死亡時刻は二十年前、四月十二日、日曜日、十七時十六分二十五秒。

 男の霊によって右肩をつかまれ、肉体から魂が抜ける――幽体離脱をさせられた。

 その後……


 庭崎市を一望できる山頂で、恐ろしく奇怪な事実が、聖霊師と聖女の前で如実に繰り広げられていた。


 真里の霊体と男の霊は崖下へ行き……。

 真里の肉体の足をふたりでつかみ、彼女を谷底へ落とした――

 

 ガス灯の輝きよりも強く青白い雷光が、百年の重みを感じさせる若草色の瞳の中で、爆発的に発光したが、聖女はただ玉露を飲んだだけだった。


 二番目の妻――霧子。没二十五歳七ヶ月。

 死亡時刻は十四年前、四月十一日、日曜日、十七時十六分十二秒。

 男の霊によって右肩をつかまれ、肉体から魂が抜ける――幽体離脱をさせられた。

 その後、霧子の霊体と男の霊は崖下へ行き……。

 霧子の肉体の足をふたりでつかみ、彼女を谷底へ落とした――


 殺した犯人が誰なのか。いや、殺したという言葉がある意味違っている事件だった。まだ途中の崇剛は、感情など乗せずに、サングリアを優雅に飲んで先に進む。


 三番目の妻――涼子。没二十四歳四ヶ月。

 死亡時刻は六年前、四月十五日、日曜日、十七時十六分四十七秒。

 男の霊によって右肩をつかまれ、肉体から魂が抜ける――幽体離脱をさせられた。

 その後、涼子の霊体と男の霊は崖下へ行き……。

 涼子の肉体の足をふたりでつかみ、彼女を谷底へ落とし殺した――


 さっきからずっと閉じられていた、冷静な水色の瞳はまぶたからさっと解放され、ひとつの結論に達した。


 すなわち、彼女ら三人は己自身で故意に死んでいったのです。

 いわば、霊的な自殺です。


 三沢岳の穏やかな春の日差しと小鳥たちのさえずり。そこに似つかわしくない、転落事故の真相。彼女たちの動機を考えると、死の尊厳はやはりどこにもなかった。


 聖霊寮で、国立が崇剛へとミニシガリロとジェットライターを、埃で濁ったローテーブルを滑らせてきた時の、やり場のない気持ち。


 それにまた襲われそうになったが、


 ですが……


 揺れていたロッキングチェアは不意に止まり、崇剛の瞳は涙で少しにじんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ