表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
614/962

Escape from evil/13

 冷静な頭脳をフル回転させていると、地鳴りのような低い声が少し含み笑いをした。


「そこに情報があると思わせれば、動くと。人のお前は神の策にはまっている」

「おかしな神ですね、光命さまも」


 中性的な唇に手の甲をつけて、崇剛はくすくす笑い出した。ラジュから聞いた話では、自身と同じような考えを神レベルでする人物らしいと。神の策が脳裏に浮かぶ。


 嘘をつくことが苦手な瑠璃にあえて、言わないようにと忠告した。

 そちらのことによって、瑠璃の言動は不自然なものになるという可能性が99.99%――

 従って、私がそちらに何らかの情報があると思い、動くという可能性が99.99%――

 そうして、私は神の思惑通り動かされたみたいです。


 崇剛は心の中で、両手を顔の位置まで上げ、優雅に降参のポーズを取った。晴れ渡る空を見上げ、さらに高い場所へいる神に敬意を示す。


 持ち直してきた乙葉親子によって、ピクニック気分の楽しい会話が再開された。


「パパ、にじでる?」

「あれは、雨が降って、そのあとに、晴れないと出ないぞ」

「そうなんだ。るりちゃん、みたことある?」

「ないの」

「すごくきれいなんだよ」

「瞬とともに見てみたいの」


 特別な感情を抱いてしまった聖女と、楽しそうに無邪気に話している五歳の子供。ふたりの間で、三十二歳の男は、微笑ましくありながら悲しい表情をしていた。


 悪霊は消滅したが、降臨したっきり帰らないカミエ。彼の無感情、無動のカーキ色の瞳はなぜか、瑠璃へと注がれていた。


 天使の視線に違和感を抱きながら、崇剛は大胆にも、人の心を読み取れる天使へ、情報収集の罠を仕掛けることにした。


 元々食が細く、食べ物にあまり興味のない崇剛は、包帯を巻いていた手をあごに当て、ささっと策を練って素早く質問した。


「ラジュ天使はどちらにいらっしゃるのですか?」


 急に話しかけられたことで、カミエは聖女から視線をはずし、うっかり言いそうになった。


「ラジュは今、シュト――!!」

「そちらにいらっしゃるのですね?」


 何とか天使の威厳を保ったカミエの前で、崇剛は優雅に微笑んで見せた。


 シュト――で始まる地名、もしくは場所などにいるという可能性が99.99%――

 合致する情報は今まででふたつあります。

 そちらであるという可能性が58.63%――


 カミエは不思議そうな顔をした。


「なぜ、俺に仕掛ける?」

「なぜだと思われますか?」


 聞いたのに、聞き返された――。情報漏洩を防ぐ、基本中の基本の方法。真っ直ぐな性格のカミエは交わし方を知らず、珍しくため息をついた。


「はぁ……」

「今回のことは、『厄落とし』だったのでしょうか?」


 聴き慣れない言葉が聖霊師から問いかけられたが、天使には何を意味しているのか十分わかっていた。


「そうだ」

「そちらを、他の言語で表したら、どのようにおっしゃるのですか?」


 いきなりの意味不明な質問――に見える、策略。カミエはまた不思議そうな顔で聞き返す。


「それは必要なことなのか?」

「必要かもしれません」


 優雅な笑みは消えていて、崇剛に見据えられたカミエは一旦考え、少し遅れて口を開いた。


「……Escape from evil」

「先ほどの場所は英語圏なのですね?」


 勝利というように、崇剛はこれ以上ないほどにっこりと微笑んだ。


「っ!」カミエは何とも言えぬ顔になり、


「情報提供ありがとうございます」崇剛は礼儀正しく頭を下げた。すぐさま、冷静な頭脳で可能性が導き出される。


 シュト――で始まる英語圏の場所。

 あちらであるという可能性が58.63%から上がり、78.98%――


 時が早回しで戻り、崇剛は昨日の朝にたどり着いた。涼介が懺悔にやってくる前に見た新聞に載せられた記事。


 と、


 幼い頃から手にしている情報が鮮明に浮かび上がった。だがしかし、関連性は今のところ弾き出せなかった。


 炭酸の泡だけがグラスの中で踊るカンパリソーダの前で、神経質な指先があごに当てられる。


 厄落としとは、物事がいい方向へ進む時に起こる、辛い出来事などを表します。

 前厄と後厄があります。

 今回は前厄です。

 なぜなら、まだ何も起きていないみたいですからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ