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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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紙切れと瓶の破片/2

 崇剛は車窓から街の風景――店の位置を見極め、自身が今どこにいるのかをデータから拾い上げた。


 中央通りの北から五番目の通り。

 東西へ伸びる一番大きな通りの交差点まで、信号はあとふたつ。

 今いる住所は、庭崎市 世見よみ三丁目十二番地二号〜三号。

 

 座り心地のいいシートに身を預けたまま、ロングブーツの細い足を優雅に組み替えた。


 本日は金曜日――


 まったく動かない車窓から、斜め前に見える店先へ視線を立ち寄らせた。そこには、大きな木の樽の中に、ワインの瓶が倒されて積み売りされてあった。


 店のショーウィンドーには、小さな値札がひらひらと風に揺れている。


 屋敷で利用している酒店――


 その時少しだけ、リムジンは前へ進んだが、すぐに止まった。崇剛の座っているシートと店の位置が横並びになる。ズボンのポケットに神経質な手を当てた。


 現在の時刻、十二時二十五分十一秒――。


 崇剛はいつの間にか、屋敷の自室にあるロッキングチェアをゆったりと揺らしながら、窓の外の景色を眺めていた――。


 三月二十五日、金曜日、十五時三分五十六秒。

 四月十五日、金曜日、十五時四分十七秒。

 四月十八日、月曜日、十四時三十八分二十五秒過ぎ。


 ドアはふとノックされ、ひまわり色の短髪を持つ、日に焼けた執事が顔をのぞかせ、困ったように話し出した。


『輸送の馬車が事故に遭ったらしくて、夕方までないんだ』


 ――崇剛の脳裏から自室は消え去り、冷静な水色の瞳は酒屋のショーウィンドを見つめていた。


 以上の三つの日付で、涼介が私に言った言葉――

 全て同じことが起きているみたいです。

 これらが、金曜日に起きるという可能性は……。

 関係しているものを全て考慮すると、78.07%――


 なかなか動かない渋滞。このままでは、治安省につく時刻が遅れてしまうと思った運転手は、主人へ振り返った。


「崇剛様、次の角を右へ曲がりましょうか?」


 迂回路の提案だったが、崇剛はきっぱりと断った。


「いいえ、こちらのままで構いませんよ」


 ズボンのポケットの中で少しずつ刻む懐中時計を、千里眼で読み取る。


 現在の時刻、十二時三十四分二十七秒。

 こちらの道を通らないと、情報収拾できないかもしれません。

 港近くの倉庫から、こちらの店への最短距離――。

 ふたつ先の交差点を右折する――です。


 車はしばらく同じ場所に止まったままだった。崇剛は神経質な手をあごに当て、冷静な水色の瞳を車窓へ向け続けていた。


 自身から見えない前方を見ながら、何やら話している街頭の人々や、店から出てきた人たちが興味津々な顔をやっているのを観察する。


 あごから時折り手をとき、紺の後れ毛を耳にかけたりしているうちに、リムジンは少しずつ進み、聖霊師が待ち望んだ交差点までとうとうやってきた。


 現在の時刻、十二時四十七分十五秒。

 場所は世見二丁目交差点。

 瑠璃は今眠っています。

 ラジュ天使は他のところへ行っていていません。

 ですから、審神者さにわを同時にすることはできません。

 従って、正しい情報を得られる可能性は、いつもより低いです。

 しかしながら、見たものは覚えておきましょう。


 長い髪が少しだけ揺れると、瞳というレンズに様々なものが映り込んだ。


 激しく壊れた馬車二台分の残骸。割れた瓶から流れ出た液体。その向こうで、言い争っている男が二人いた。


 治安省の制服を着た職員が計測したり、交通整理をしている場面が、崇剛の冷静な頭脳へ着実に記録されてゆく。


 窓を開けると、春風が髪を優しくなでたが、騒然としている事故現場には雑音があふれていて、望む音は聞こえてこなかった。


 崇剛は千里眼のチャンネルを開き、言い争っている男ふたりに合わせた。


「間違ってるのはそっちだろ!」

「いや、信号は進めだった」

「こっちもそうだ!」


 言葉をリピートし始めた男ふたりの声を背景にして、包帯を巻いた手をあごに当てた。


 おかしいみたいです。

 どちらの信号も同じ――進む。

 魂と肉体の声のズレはない――どちらも嘘を言っていない。

 従って、霊によって幻を見せられた……という可能性が23.56%――


 今度は別のチャンネルへ変え、見えている人がガラスのように透き通り、あの世の人影に照準を合わせて、首を動かさないまま、神経を四方八方へめぐらせる。


 呪縛霊、地縛霊……ではないみたいです。

 

 心の目が大通りの歩道にいる人々を縫うように浮遊してゆくが、はっきりとした人影はどこにもなかった。


 見えません。

 おかしい――。

 事故は繰り返し同じ場所で起きているという可能性が87.65%――

 ですが、こちらの場所に縛り付けられている霊は見えません。

 そうなると、動くことが自由な浮遊霊、もしくは怨霊が原因――。

 しかしながら……。


 脳裏で流れていた幾重ものデータという川だったが、たった一列が正常に動いていなかった。冷静な水色の瞳はついっと細められる。


 やはりおかしいですね。

 別の場所で事故が起きても、おかしくありません。

 なぜ、こちらの場所なのでしょう?


 疑問が残る事件現場を通り過ぎると、リムジンは順調に治安省へ向かって走り出した。聖霊師の違和感を置き去りにしたままで。

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