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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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Spiritual liar/4

「どうかされましたか?」

「た、誕生日とか書くんじゃないんですか?」


 冷静な水色の瞳は横にゆっくりと揺れる。


「そちらは、占星術などのケースであり、霊視には関係ありませんよ」


 依頼主の心と口から出てくる言葉の両方が、千里眼という鼓膜に振動を与え始める。元は肩の力がふと抜けて、シャツの襟を何度か触った。


「あぁ、そうなんですか……」

(ずいぶん、いい加減なんだな……)


 細い足を優雅に組み、崇剛は依頼主の心の声を聞きながらも、上品な笑みを崩さないままだった。


「どのようなことがあったのか、詳しく聞かせていただけますか?」


 元は暗い表情に急に変わって、ボソボソと声が小さくなった。


「さ、最近、『最悪』なことばかりが起きるんです」


 心の声が聞こえなくとも、相手がどんな人間かは垣間見えるものだ。崇剛の遊線が螺旋を描く独特な声が春風とともに診療室に舞う。


「どのようなことですか?」


 元は袖口をいじりながら、言葉につっかえた。


「あ、ある晩、夜中に水を飲もうとしたら、水道から血が出てきたんです」

(あ、あれにはびっくりした)


 心霊現象の数々に幼い頃から出会い、幽霊を見るなど当たり前の崇剛。恐怖という感情などは、いくらでも冷静な頭脳で抑えられる聖霊師は、顔色ひとつ変えなかった。


「そうですか。他には何かありましたか?」


 元は木の床のしま模様を目で追う。


「ち、治安省に逮捕されました」

(何で、何もしてない自分が、逮捕されなくちゃいけないんだ!)


 言葉足らずの依頼者に、聖霊師は的確な質問を投げかける。


「どちらの寮ですか?」


 あの狭い骨董店で、国立に突きつけられた、手帳の文字を思い出そうとしたが、記憶力がひどく曖昧で、元は顔を上げて、視線をあちこちに飛ばした。


「せ……せい?」

(初めて聞く名前だったから……覚えてない)


 頭文字でどこだか導き出した崇剛の、水色の瞳はついっと細められる。霊の犯罪を取り扱う部署だと知って。


「聖霊寮ですか?」


 元は他のところに視線を飛ばしていたので、聖霊師の瞳の動きに気づかなかった。


「そ、そう、それです」

(な、何でわかったんだろう……?)


 さっきからずっと、おどおどしている依頼主とは違って、冷静さをたもち続けている崇剛は、包帯を巻いた手をあごに当てた。


「聖霊寮のどなたに逮捕されたのですか?」


 あの黄ばんだ空間とゾンビみたいな人々を、応接セットから眺めた光景が浮かび上がる。


 国立氏であるという可能性が97.65%――。

 聖霊寮で仕事をきちんとされている方は、彼ひとりだけです。


「国立って刑事です」

(脅されてばかりだった……)


 元の口から予測通りの名前が出てきて、崇剛は次の質問へ移った。


「そうですか。いつ、逮捕されましたか?」


 パズルピースがひとつひとつ並べられてゆくように、今までの出来事が、崇剛の脳裏で組み立てられてゆく。


 聖霊寮に拘束されていて、こちらへこれなかったみたいです。

 すなわち、国立氏が恩田 元を逮捕したのは……。

 先週の予約時刻、四月十九日、火曜日、十五時半より前であるという可能性が99.99%――


 猫背で座っている元は考えようと、あごを突き出して白い天井を見上げた。


「あれは……先週の火曜日、午後二時半過ぎ……だったと思います」

「そうですか」


 一度情報を整理するために、策略家はお得意の間を置く言葉――どうとでも取れる相づちを打った。


 崇剛は千里眼を使って、正確な数字を呼び寄せ、前面から起き上がるように迫ってくる数字を読み取った。


(144337……十四時四十三分三十七秒が正確な時刻)


 人を裁くことは神にしかできないと信じている神父は、千里眼を持っていたとしても、依頼主がどちら側の人間かは正確にはわからないと知っていた。それでも、


 国立氏の霊感は感じる程度ですが、彼が冤罪えんざいで逮捕したことは、今まで一度もありません。

 従って、以下の可能性が97.67%で出てきます。

 恩田 元は邪神界である――。

 残りの2.33%は正神界である。


 他の聖霊師たちは意見が割れ、国立もお手上げだったことに、事実と可能性だけで、崇剛は一旦決着をつけた。


 策略家はよくわかっていた。事実として起こらない限り、どんな物事も可能性の数値は簡単にひっくり返ることがあるから、人生は面白いのだと。


 優雅に足を組む神父の隣に立っている、白いローブを着た天使の綺麗な唇が動くことはなかった。合っているのだ。


 冷静な水色の瞳は、依頼主を真っ直ぐ射るようにうかがっているが、優雅な笑みに隠されていて、そんな雰囲気は微塵もなかった。

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