表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
545/962

血塗られた夜の宴/10

 屋根の上にいた男は大鎌をかかげたまま、山吹色のボブ髪をかき上げた。


「そう、モノマネね。うまいね」


 お褒めの言葉が聞こえない次元でかけられているとは知らず、崇剛は心の中で違和感を強く感じる。


(非常に言い慣れませんね、こちらの言葉遣いは)


 悪霊に囲まれている状況下で、国立の真似をして、笑いを取るほどの余裕を持っていた。


 策略家の罠が一重なはずがなかった。冷静な水色の瞳は至福の時というように、ついっと細められる。


 シルバーリングのはめられた神経質な細い手が、乱れた後れ毛を優雅に耳へかき上げた。

 

 私は事実から可能性を導き出す。

 どんなにゼロに近くても可能性は可能性です。

 急激に可能性が99.99%に跳ね上がることはよくあります。

 ですから、自身の勝手な判断や感情で、可能性を切り捨てない。

 従って、膨大な不確定要素がデータとして、私の中に常に残ったままなのです。


 国立に出会った日から時刻、国立の言葉が一字一句 たがわず、自身がそれに何と返したかまで、順番が前後しないまま着実にデジタル化されていた。


 崇剛の冷静な頭脳の中を、国立のデータが流れ始めるが、悪霊たちと戦闘中のため、全て指示語で再生されてゆく。


 あちら、こちら、そちら……。

 国立氏がおっしゃっている、プロレスの技。

 気になって調べてきました。

 そのため、格闘技の知識は少々ありますよ。

 従って、こちらを使って、ダガーがない今戦います――。


 聖なる武器――ダガーを奪った幽霊の背後を取った崇剛は、大きく振りかぶって、拳を悪霊の背中へ向かって勢いよくねじり出した。


「ぐはっ!」

「ナックルパンチです」


 崇剛に打破された部分を前へ突き出し、ブーメランのように背をそらし、樫の木へ向かって悪霊は宙を横滑りし始めた。


 衝撃で奪われた聖なるダガーが、悪霊の右手から夜空へ向かって、縦に回転しながら飛び上がった。


 ダガーが落ちてくる間に、迫りくる他の幽霊たちにも、崇剛は次々にシルバーリングを食らわせ、敵の勢いが怯んだ隙に、


 シュリュシュリュ……。


 縦に回転しながら落ちてきた、ダガーの柄の軌跡を読み取る。


(今です)


 瞳の上あたりで、向こう側から細い線を描くように刃先が迫ってきた。このまま握ってしまうと、ダガーで手が切れてしまうが、千里眼の持ち主は絶妙なタイミングで、刃と入れ替わりで次に立ち上がってきた、立派な装飾がされたシルバーの柄をいつも通り逆手持ちした。


 崇剛の内で奏でられていた音楽は、ティンパニの強打で曲調が変化した。ソプラノとテノールのフォルティッシモで歌い上げる。


 Sors salutis/救いの運命よ。

 Et virtutis/美徳の運命よ。

 Michi nunc contraria/それらは背を向け、遠ざかる。

 Est affectus/心を高ぶらすもの。

 Et defectus/失望させるもの。

 Semper in angaria/常に女神の意のままに。


 止まっていた戦況が再び動き出した。まわりに幾重にも群がる悪霊たち。両手で分身させたダガーを巧みに使いこなしながら、さけては壁などに向かって短剣を突き放す。


 磔にしてゆく敵の数が多く、紺の長い髪があちこちに揺れ乱れる。冷静な水色の瞳は氷河期を感じさせるほど冷たかった。


(こちらでは対応し切れない。そうですね……?)


 全てを記憶する頭脳に膨大な量のデータを流し始めて、勝つ可能性が一番高いものを選び取った。


 崇剛は優雅に微笑んで、両腕を大きく振り払い、悪霊が怯んだ隙に背後へ一気に振り返った。


 利き手の人差し指と中指に挟んだダガーを、神経質な左頬へ持ってゆく。左手でダガーの分身を作る仕草をしたが、いつもと違い、いく枚もあるカードを開き持ちするように、弓なり状にゆっくり動かした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ