表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
536/962

血塗られた夜の宴/1

 カーテンの隙間から、斜めに差し込む月明かりは青く冴えていた。全てのものが眠ってしまったような、時が止まってしまったような、静寂が広がる夜。


 窓を叩きつける雨は、真っ赤な血だった――


 ベルダージュ荘の主人――崇剛は寝室でふと目を覚ました。


「地震……?」

 

 雨音はどこにもなかった――。


 綺麗に晴れ渡る夜空から、月影が窓辺の端に降り注いでいた。


 乱れた髪のまま、揺れがくるのを身構え待っていたが、予想が外れ、静かな夜ばかり。


 虫の音も聞こえないほどの静寂。その中にひっそりとまぎれながら、起きたばかりの冷静な頭脳が即座に稼働する。


 私が夜中に突然目を覚ます原因はひとつだけです。

 地震の数秒前に目を覚まします、どのような小さなものにでもです。

 ですが、きません。


 窓の外で、血のように赤いふたつの目に月がかかる――


 崇剛はベッドに横になったまま、薄闇に浮かぶ影――家具類を、冷静な水色の瞳に映すが、特に異常はなかった。


(おかしい……。なぜ、目を覚ましたのでしょう? 何か別のことが起きている……という可能性が出てきます)


 就寝時は必ず自分からはずして、サイドテーブルの上へと置く、聖なるダガーを引き寄せようとして、崇剛は上半身だけすうっと起こした。


 桔梗色をしたシルクのパジャマが姿を現すと、かぶっていた毛布が腰元へするすると落ちる。


「物質界と霊界をつなぐ、二重効力の武器……」


 顔に絡みついた髪をかき上げる、崇剛の神経質な手は、ひたいから頭を通り過ぎ首へと流れた。


 執事を壁ドンの罠にかけた日から、日付はいくつか過ぎて、ダガーの出番と言えば、浄化のために訪れる旧聖堂だけで、特に変わった様子もなかった。


 平和な日々だからこそ、心の中で吹き荒ぶ恋情の嵐だけが、やけに色濃く傷跡をつけてゆくのだった。


(肉体を持っている私は霊には触れられません。すなわち……どんなに望んでも、彼女に触れることはできない)

 

 赤い目の下で、白い服が夜風でなめるように揺れる――


 寝室のベッドの上で、恋に落ちた三十二歳の神父は瞳をそっと閉じた。胸の内で今日までの日々を振り返る。


 冷静な頭脳で、私は常に感情を抑えて生きてきました。

 ですから、自分自身の気持ちに気づかなかったのです。

 彼女を愛していると知ったのは、神父になったあとでした。

 気づいたのは、ごく最近です。

 小さい頃から、繰り返し見る夢が私にはある。

 そちらは、メシアの影響を受け、気を失った時に見るものです。

 ですが、先月の、三月二十四日、木曜日、十一時三十六分二十七秒前。

 そちらの時から、見る内容が一部分変わったのです。

 次に、同じものを見たのは、四月一日、金曜日、十五時四十三分三秒前。

 そして、自身の気持ちに気づいたのです――。


 春の匂いが微かに残る部屋の中で、心は冬に逆戻りしたみたいに花冷えしていた。


 ですが、彼女の心はすでに、他の人へ向いていた。

 しかしながら、それでも……私は彼女を守りたい――


 ごくごく当たり前の感情がはっきりと浮かび上がった時、


 パチ!

 パチ!


 奇妙な音が脳裏の奥底で鳴るのを聞いた。木の棒で何か硬いものを叩くような乾いた響き。


 崇剛はさっと目を開け、さっきまで月明かりが差し込み、薄闇だった部屋に暗黒が広がっているのを見つけた。


「何でしょうか?」


 月に厚い雲がかかり、不気味な闇が忍び寄っていた。それを強調するように、奇怪な音が自分の内側へ響いてくる。


 パチ!

 パチ!


 崇剛は音の出どころを見極めようと、あごに曲げた指を当てた。


「どちらから……?」


 パチ!

 パチ!


 音の聞こえ方の特徴を今までのデータを使って、冷静な頭脳で推し量り、水色の瞳はついっと細められた。


「ラップ音……であるという可能性が99.99%――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ