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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
524/962

Disturbed information/3

「逮捕状はあるんですか?」


 スパーをかちゃかちゃと鳴らしながら、国立はカウンターへ正面を再び向け、斜め前に倒れるような格好で両肘でもたれかかり、吐き捨てるように笑った。


「少し遅延レイトしててな」


 墓場は何もかもが死んでいて、花形の罪科寮とは違って、自身の損得優先のお偉方はなかなか動かないのだ。


 もう少し待つようなら、出直すしかないところだったが、開けっ放しにしていた店の入り口から、国立を慕ってやまない二十代の若い男が一枚の紙を持って、勢いよく滑るように入ってきた。


「兄貴、遅れったす!」


 国立は女と対峙しながら、手を頭の脇へ持っていき、崇剛がダガーを持つように人差し指と中指を広げた。


「よこせ」


 くわえたままのミニシガリロの脇から、ボソボソと言葉がもれ出る。


「先に動いてりゃ、しょっぴくの少しでも早くなんだろ。少しでもレイトすりゃ、邪さんにソウル持ってかれちまうからよ」


 絶妙のタイミングで、一枚の紙が細い線を引っかくように、指と指の間に置かれた。


「ジャスト!」


 しゃがれた声が響き、指で紙を挟み、パラパラと宙で見せつけるように舞わせながら、逮捕状の文面を女の正面へ持っていった。


「見ろよ」


 文章を読み始めた女は、どんどん信じられない顔になってゆく。


「…………」


 吐き捨てるように鼻で笑い、国立は女をにらんだまま、ガサツな声で一言忠告してやった。


「お前さん、この男に殺されるぜ」


 人は偶然だというが、邪神界の人間が身内を殺すなどよくある話だった。心霊刑事として駆け抜けてきた一年で、事故や病気に見せかけて殺したなど、世の中にはゴロゴロと転がっていた。


 元の妻は紙面から顔をさっと上げて、心霊刑事の鋭い眼光をもろともせず、こっちもこっちできっとにらみ返してやった。


「この人がそんなことをするはずがありません!」


 カウンターに深く頬杖をつくと、国立の羽根型のペンダントヘッドが木に当たって、ゴトンと鈍い音と立てた。


「旦那から聞いてねぇのか? 過去に三人死んでんぜ?」


 今もガクガクブルブル震えている気の弱そうな男の過去には、闇が隠されていたのだった。女はそれでも怯むことなく、言い返そうとしたが、


「あちらは、全て事故――」


 その言葉をさえぎって、国立はカウボーイハットのツバをわざと下ろし、ギリギリのラインを狙って、鋭い眼光をさらに強調させるような位置でにらんだ。


「殺人未遂が一件。れって、お前さんも落ちたってことだろ? 同じ場所からよ」

「調べたんですか?」


 女が聞き返すと、認めたと一緒になった。


「そりゃそうだろ? 三人も死んでんだからよ」


 あの膨大な資料の山から抜き出した、この事件は今もまだこうやって続いている。犯人が地獄へといかない限り、また誰かが犠牲になるのだ。


 女は自分にしがみつくようにしている夫の頭を優しくなでる。


「主人は私のことを気遣ってくれました。落ちやすい場所だからと、それに……」


 妻が夫を愛する気持ちは本物だと、国立は思いながら先を促した。


「れに?」

「主人と私は距離をきちんと開けて歩いてました。たとえ突き落とすにしても、手は届きません」


 先に死んでいる三人とも同じだった。元の手の届く位置にはいなかった。足を滑らせて落ちたのだろうと、判断するしかなかった。しかしそれが、四人も手にかける事件へと発展してしまった落ち度だった。


 今こうして話している間も、どこに仲間が潜んでいるかわからない。単独犯とも限らない。国立は神経を研ぎ澄ましながら、見えているものだけを見て話している女に問いかける。


「届かせる方法があったら?」

「物理的に無理です」

「可能にできる方法があったら?」

「そんな方法があるんですか?」

「れを、調べんだろ?」


 真相にたどり着かなければ、次もまた人が死ぬかもしれないのだ。女は反論する言葉をなくし、自分の足元でうずくまっている夫を心配そうに見つめた。


「…………」


 細い首元に異変を見つけて、数々の事件を解決してきた心霊刑事は、嫌な予感を覚えた。


「そのアザも落ちた時についたのか? 首にずいぶんついてんな。お化けさんに、首でも締められたみてえだ」


 転落してできたアザかと思ったが、女は隠すように手をそこへ当てた。


「……こちらは違います」 

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