ダーツの軌跡/1
瑠璃と別れて、崇剛の茶色いロングブーツは屋敷へと入って階段を上ってゆき、神経質な指先はあごにまた当てられた。
(瑠璃さんは気づいていないみたいでした)
わざと言わなかった情報がある。それは、生霊とともに現れていた、ルビーのように赤い目が印象的な、白い服に身を包んだ男のことだ。背中についていた立派な翼から、天使と判断してしまいがちだった。しかし、崇剛は懸念を抱く。
正神界の天使である――。
ですが、こちらの疑問が出てきます。
なぜ、瑠璃さんは見えなかったのでしょう?
瑠璃さんは天使の一番上まで見ることが可能です。
そうなると……。
出てきてしまった矛盾を打ち消すには、崇剛はこう仮説するしかなかった。
彼は邪神界の天使である――。
敵にも天使のランクはあります。
しかしながら、こちらが事実であるとすると、瑠璃さんに審神者をしていただいた、全ての可能性の数値が変わってしまう……。
二階の廊下へ上がり、吹き抜けの流れる滝のような夜空を映すガラス窓を仰ぎ見る。冷静な水色の瞳に、流れ星が一筋の線を細く描いていった。
もうひとつの可能性。
生霊とは関係していない――まったく別の可能性がある……。
夕方に始まった事件は、様々な不確定要素を含んでいて、聖霊師にはまだ情報が少なく、断定するまでには至らなかった。
(こちらのことに関しては、今のところここまでみたいです)
真正面へ顔を向けて、壁にかけられたガス灯の下に映し出された、崇剛の影が赤い絨毯の敷かれた廊下で、手前から反転するように向こう側へ動いては消えてを繰り返してゆく。
(それでは、次は涼介のことです)
冷静な頭脳には、執事に関する膨大な量のデータが土砂降りの雨のように上からザーッと流れ出した。そこから、必要なものを選び取りながら、人気のない廊下を進んでゆく。
涼介は正直で素直であるという傾向がある。
同性同士の大人の話が苦手であるという可能性は99.99%――
私のお酒を飲む量を把握しているという可能性が87.21%――
これらを含めて考慮すると、あちらの方法が情報を引き出せるという可能性が一番高い。
従って……こうしましょうか?
優雅な足取りは自分の寝室のドア前で一旦止まり、崇剛はドアノブをそっと回した。
少しだけこちらを開けておきましょう。
こちらが必要になるという可能性は67.34%――
ドアに一センチほどの隙間を開けて、崇剛は涼介との約束の場所へ向かっていった。




