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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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魔除の香りはローズマリー/1

 芽吹きの足音が聞こえる三月。花香りが街ゆく人々に優しさを振りまき、宵闇の月が冴え冴えと月影を街角へ落とす。


 重力を克服した国で、空中道路を車が行き交う。部屋の窓にかけられたレースのカーテンは閉めなくとも、レールにかけておけば、外から見えないという高技術を駆使した作りだ。


 高層階にある大きく豪華な部屋は間接照明でほのかに照らし出されていた。人払いがされており、椅子に座っている男とかがみ込んでヒソヒソと話す初老の男ふたりだけだった。


「……was gone/……ということです」

「I see/そう」


 話を聞いた若い男は気にした様子もなく、短く相づちだけを打った。それに対して初老の男は焦っているようで、前で合わせている手を握る力が強くなる。


「どのように致しますか?」


 問いかけたのに、若い男の視線は手元ばかりを見ている。


「今は動かなくていい」


 涼しい顔をして、書斎机に頬杖をついている若者を、初老の男はさとすように言葉を紡ごうとしたが、途中でさえぎられた。


「お言葉ですが、そちらでは――」

「下がっていいよ」


 若い男は相変わらず頬杖をついたまま、携帯電話でアプリゲームを無表情で適当にプレイしていた。初老の男は反論しようとしたが、


「いや、ですが……」


 若い男の瞳は真っ直ぐ向けられた。聡明な瑠璃紺色の目は見ただけで震え上がってしまうほど、冷酷非情なもので、さっきとは声色が違い、有無を言わせない強さがあった。


「命令だ、下がれ」

「はい、失礼いたします」


 初老の男は説得をあきらめ、一礼して部屋から出ていった。ドアがパタリと閉まり、若い男はゲームをしながら、机の傍らに置いておいた時計をうかがい、きっかり一分経ったところで、椅子から立ち上がった。


 窓へと近づいていき、視線と同じ高さにある空中道路を走る車のテールランプが線を引く赤を眺める。


「I will be arrested tomorrow/ボクは明日拘束される」


 さっき部下が話してきた内容はそういうことだった。慌てるでもなく、おびえるでもなく、若い男は近くにあった丸テーブルに乗る長方形のカードの山を見つめた。


「Move to heaven!/神の元へ!」


 ラピスラズリをはめ込んだ腕輪が腕から手首へ落ちると、不思議なことにカードの山はテーブルの上から消え去っていた。

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