芽吹く大地:燿の場合
暖かい日差しが差し込む窓際へ、颯茄は近寄った。デッキチェアに横たわっている人をのぞき込む。
「燿さん?」
「な〜に〜?」
間延びした声が返ってきた。とろんとした瞳。大きなあくび。
「昼寝中でしたか」
「いや、いつの間にか眠ってた」
「子供たちがあっちにいるってことは、パパが眠ちゃったから、そっとしておこうっていう気遣いですよ」
「ふわあ。眠くていけないねえ」
燿はいつだって眠いのだ。陽だまりがそうさせるとかではない。
「起きたところ、早速なんですけど、燿さんをモデルにした曲を作ってきました」
「あらま、そんなことしてたの。通りで部屋から出てこないかと思えば」
軽快なヴァイオリンの音が聞こえてきた。
【芽吹く大地】
凍てつくような世界で
生きてきて 終わり告げた
優しさや思いやりなど
どこにもなかった
ひび割れた大地に雨が降り
芽吹いた花はひどく綺麗で
いつの間にか微笑んでた
柔らかな陽射しの中で
眠りに落ちる
呼ばれては目を覚まし
笑顔が迎える
どんなときでも必然は
偶然のふりをして
いつもの午後が過ぎていき
声をかけられた
運命がめぐって 何もかもが変わって
願っていた幸せが
向こうからやってきたんだ
穏やかな時間の中で
至福に満ちる
冷たい時代は終わり
温かさ帯びる
ひび割れた大地に雨が降り
芽吹いた花はひどく綺麗で
いつの間にか微笑んでた
柔らかな陽射しの中で
眠りに落ちる
呼ばれては目を覚まし
笑顔が迎える
曲が終わって、颯茄は慎重に聞いた。
「どうですか?」
「よくできてるねえ。俺の心をよく書いてる」
燿は柔らかく微笑む。
颯茄は今目の前にいる夫の身に起こったことを口にする。
「邪神界にいて、普通の生活に戻って、結婚したいと思った明智家から、『これ以上は結婚しません』宣言が出て、一人きりだったわけですけど」
「そうねえ。俺には縁がないのかとも思った」
「でもそれが、まさかゲームのモデルになっていて、そのゲームをしていた私が恋をしてたなんて」
「思ってもみなかったね」
「しかも、孔明さんが偶然街で見かけて、声をかけるなんて」
「奇跡だねえ」
「運命ってことですよ。邪神界には温もりや幸せはありましたか?」
「なかったね」
「好きでなったんじゃないんですもんね。上から命令されてやってただけですもんね」
「そう」
「他にも子供好きな人がたくさんいたって聞きました」
「そうねえ。みんな平和で仲良くを望んでたよ。ほんと、『凍てつくような世界』だった」
「でも、もうそれは終わりです」
「そう、終わり」
颯茄と燿は窓から見える、平和に満ちた街を見下ろした。
「これからは、歌にあるように暖かな世界で過ごすんです」
「そう。微睡から目を覚ますと、子供たちの笑顔があるっていうのは、本当にいいねえ」
「そうですね」
陛下のお陰で、平穏は芽吹いたのだった。




