恋をしたんだ:孔明の場合
通された部屋の開放感に浸りながら、颯茄は部屋の主に声をかけた。
「お邪魔しま〜す」
「お邪魔じゃないよ。僕の妻なんだから」
孔明は足で座布団を並べながら答えた。颯茄は部屋の中なのに縁側のある場所へ行く。前面の窓は全開。
「やっぱり冬でも開けっ放しなんだね」
「この方が頭が冷えて、いい考えが思いつくんだよね」
「でも、コタツがある」
板の間に冬でも正座している孔明。だが、今日は違うものが鎮座していた。
「子供たちがここで遊ぶのに、寒いっていうから、彼ら用」
「孔明さんは入らなくても、平気なの?」
「ん〜、もう慣れちゃった」
「そんなもんですか。でも、私はコタツに入ろう」
「どうぞ」
山積みのみかんに手を伸ばそうとして、颯茄は当初の目的を思い出した。
「お待たせの曲ができたので、携帯に入れて持ってきたよ」
「わあ、聞きたい!」
「じゃあ、再生!」
アップテンポな曲が流れ出す。
【恋をしたんだ】
赤い花咲く 僕の心に
晴れ渡る草原
くるりふわりまわりながら
今僕は 恋をしたんだ
走り出せ 彼の元に
道理なんてどうでもいい
笑った顔 盗み見る
そんなことどうでもいい
綺麗な羽根が 僕の心に
舞い降りてきんだ
拗ねる日々は 終わりを告げ
今僕は 恋をしたんだ
飛び越えて 境界線は
ルールなんてどうでもいい
痺れる指 深呼吸して
理屈なんてどうでもいい
死んだように 平気なふりして
無感情な嘘はいらない
胸はずむ ドキドキして
心のうちを明かすよ 君に
手が触れるたび ほら軽やかに
ステップを踏んで
悲しい時間 変わっていくよ
今僕は 恋をしたんだ
熱くなる 体中が
理性なんてどうでもいい
切なさも 痛みもない
人目なんてどうでもいい
愛おしさが 溢れ出してくる
無表情な振りはいらない
光るリボン かけられてる
心のうちを明かすよ 君に
走り出せ 彼の元に
道理なんてどうでもいい
笑った顔 盗み見る
そんなことどうでもいい
死んだように 平気なふりして
無感情な嘘はいらない
胸はずむ ドキドキして
心のうちを明かすよ 君に
Youtubeリンク
https://youtu.be/RASXNdVQ63k
全て聞き終わって、孔明は春風のように柔らかく微笑む。
「何だか可愛らしい曲だね」
「孔明さんをイメージしたからね」
「ボク、可愛かったかな?」
「私から見ると十分可愛い。『颯ちゃん、颯ちゃん』って、廊下横滑りする姿なんて、子供みたいでさ」
「ふふっ」
曲を聴きながら皮をむいたみかんを、颯茄は頬張る。
「結婚する前って、こんな感じだった?」
「ん〜、そうだね? 思ったことはあるけど、行動には出してない」
「ま、だから、明智家に来るまで結婚してなかったんだもんね」
「そう」
歌に出てくる相手は、張飛。彼と結婚する前に、明智家に婿に来た。張飛が婿に来たのはだいぶ後の話だ。
「孔明さんの心がこんな風に動いてたらいいなと思って、書いたんだよね」
「そうなの?」
「そうなの。ドキドキはしないの?」
「するよ」
颯茄は幸せそうな顔をする。
「するんだ。何だか、また親近感が湧いたな。クールなイメージだからね」
「颯ちゃんはするの?」
「最近はあんまりないけど、ドキドキすると楽しくなるよね」
「楽しいことはいいよね。子供たちがここへくるようになって、仕事するのもっと楽しくなった」
「よかったね。前も楽しかったのに、もっと楽しくなれるなんて、神様のおかげだね」
「そうだね」
神がいるであろう空を二人とも仰いだ。




