天才軍師の結婚/5
その頃、自宅の板の間から、月明かりがあふれるように金色に輝くススキを眺めていた孔明は、焉貴からの電話を切った。勝利を喜ぶ軍師のように扇子をヨットが帆を張るようにバッと勢いよく広げ仰ぎ出す。
「ふふっ。ボクの作戦はこう」
まずは……
焉貴に紅朱凛と結婚することを伝えると彼は落ち込んだ。
紅朱凛はバイセクシャルの複数婚をしたいと望んでる。
どんなことでも、命がけの戦場と一緒。だから、二人を救う手立てを考えた。ボクはもともと軍師だからね。
まずは最終目的を決める。
――明智家にボクと彼女が婿養子と嫁に行けること。
これが二人を救える方法。
ただ、注意事項がある。
恋愛や結婚に関しては、相手の気持ちが必ず絡む。
だから、自分に気持ちがない時は、罠を仕掛けてはいけない。
成功した時、相手が傷つくことになるからね。
期限は、ボクの仕事が忙しくなる十二月の半ばまで。あと、残り二十七日。
これを叶えるために、今までの事実の中から必要な情報をはじき出す。
焉貴が婿に行った先は、今結婚することが禁止されてる。
ボクは家長と話したことがある。
彼は思慮深くて、慈悲深く、落ち着きのある人。
筋の通っていないものは許さない人。
まずここまでで導き出せること。
筋が通っていれば、目標にたどり着ける可能性が非常に高い。
――だから、家長を説得できる人が必要。
それは、焉貴と彼の配偶者。
これが次の目標。
さらに事実をはじき出す。
ボクは焉貴以外に、明智の分家に知り合いがいない。
婿養子の焉貴が家長に約束を取り付けることができる可能性は非常に低い。
そうなると、他の人。
同じ理由で、他の婿養子と嫁は全員はずれる。
そうなると、残り二人。蓮か倫礼。
自分から動いてもらう。
これは結婚だからね。
相手の感情を抜きにして、無理やり動かすわけにはいかない。
二人で可能性が高いのは、実の娘の倫礼。
倫礼はファザコンだって、焉貴から聞いた。
彼女は感情の人。
情に訴えかける方法で、彼女は動く可能性が非常に高い。
焉貴は落ち込んでる。
彼女の前でも落ち込んでる可能性が高い。
だから、ボクはただ待った――
翌日、焉貴が倫礼がこう言ってたと言った。
「結婚はできないかもしれないけど、そんなに好きなら、その人と彼女に許可を得て、会いに行ったり、膝枕してもらったらどうかな?」
焉貴は配偶者の許可は全員得たと言った。
ボクと紅朱凛はもちろん了承した。
ボクと焉貴は毎日電話をした。
残り二十二日。
五日目にボクは焉貴の家に招待された。
倫がボクが孔明だと気づいた。
だけど、彼女はボクに何も言ってこなかった。
彼女はボクに気がないという可能性が高い。
彼女が家長を説得する可能性は非常に低い。
――ここで作戦変更。
許嫁だった蓮に動いてもらう。
倫の次に家長とは関係性が深い。
蓮が家長に働きかければ、最終目標を達成する可能性は高くなる。
ボクは蓮とはその時初めて会った。
彼は光命、焉貴、月命にプロポーズしてる。
彼はミュージシャンだ。
焉貴が話してた。
他の配偶者との恋愛感情を、蓮は説明できない。
一目惚れの可能性が高い。
そうなると、感性で動いてる可能性が高い。
感性に働きかける一番成功する方法……。
それは……。
――ボク、蓮にいきなりキスしちゃった。ふふっ。
彼はボクにこう言った。
「なぜ、俺にキスをする?」
でも、怒ってなかった。
ってことは、作戦成功かも〜?
そうして、翌日、焉貴から連絡があったんだ。
――蓮がボクに恋したって。
蓮はボクが仕掛けた通り、家長にボクとの結婚の許可を取りに行った。
そうやって、ボクと彼女は明智家に入った。
――六日間で、ボクの勝ち!
孔明はセンスを手のひらでぱしんと勢いよく閉じて、晴々した顔で月を仰いだ。
こうして、明引呼よりも先に、孔明と紅朱凛が、婿養子と嫁にやってきて、月命は地をはうような低い声で唸り、明引呼は度肝を抜かれた。光命の講座の申し込みは意味をなさず、直に教わる日々が始まるのだった。




