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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
大人の隠れんぼ=妻編=
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妻の愛を勝ち取れ/16

 好きと言わない妻。策士の夫。罠を仕掛けて言わせたことなど、過去にあるだろう。だから、青が似合う夫が最初に見つかったのだ。


 初めて言うのと、二回目は戸惑いが違う。そうなると、交換条件にできる可能性が高い。そして、妻に約束させたのだ。


 夫たちだけが集まった時、青の夫が言われていないと返事を返したのは、最後から二番目。瞬発力があって、真っ先に言葉を発するのに不自然だ。


 そこまでで、自分の愛する夫たちは、八人も言われていないと言っている。策士だからこそ、嘘をついたのだ。愛ゆえに。


 明引呼の前にいきなり現れて、頭の良さ全開で話しかけてきた男。数ヶ月後には結婚して、夫夫になった。あの優雅な悪戯王子に、兄貴はそそられっぱなしの毎日。


「惚れさせやがんな、あれはオレのことをよ」


 同じ激情を持つ男同士、いや夫同士。男のロマンだったが、二人が共有している妻は親指を立てて、歯をキランときらめかせて渋く微笑んだ。


「兄貴、カッコいいっす!」

「から、家で兄貴って呼ぶんじゃねえ」


 ビジネスとプライベートを一緒にするな、なのである。明引呼の太いシルバーリングをしたごつい手で、颯茄の親指はねじ伏せられた。


 また同じ笑いが繰り返されそうだったが、二人の頭上近くに白いミニのチャイナドレスが立った。


「おや〜? 海賊ごっこですか〜?」


 凛とした澄んだ女性的な声がおどけた感じで割って入ってきた。


 空を見上げる形で芝生に寝転がっていた明引呼。彼の鋭いアッシュグレーの瞳に、しっかりと月命のスカートの中が映っていた。


(てめえ、モノが見えてんだよ)


 愛する夫としてはいい眺めだった。図書室で夕霧命が笑っていたのも、今となればよくわかるというものだ。


 だが妻には何がどうなって見えているのかの詳しいことがわからない、月命のミニスカートの中。


 あんなにパンツをのぞきたがっていた彼女だったが、うつ伏せになっている颯茄に見えるはずもなく、気にすることもなく、海賊という言葉をきっちり拾った。


「あぁ、それいいですね。明引呼さんを船長にして、みんなで宝島に行くという物語を作る! 『野郎ども、俺についてきやがれ!』って言って――」


 そんな熱い野郎どもとは遠い存在の、月命はニコニコ微笑みながら、こんな言葉でさえぎった。


「それでは、僕が海に入って、サメの餌食えじきです〜」

「えっ!? 何で、自ら死ににくんですかっ?!」


 颯茄はびっくりして、思わず女装夫を見上げた。だが残念ながら、角度的に妻から夫のスカートの中は見えなかった。白いチャイナドレスが青空を反射して、水色の光沢を放っている。


 ピンヒールで悩殺全開で立っている、曲線美を持つ足を、明引呼は手でバシンと強く叩いた。


「このドM野郎」


 パンツまで見せて失敗し、サメに食べられたいと願う。だが、問題はそこではなかった。


「――っつうかよ、サメさんも分別あるっつうの」


 小説にのめり込み気味な颯茄は、この世界の法則を思い出して大声を上げた。


「あぁ! そうですよ。家族で海に泳ぎにきただけじゃないですか! 他の人は食べないです!」


 サメだって、普通に生活しているのである。兄貴の職業は、食肉生産の農家だ。


「うふふふっ」


 失敗するの大好きな夫の前で、妻はさらなる隠れ場所を探しに、すっと姿を消した。月命の内手首の時計は、


 十五時四十一分三十七秒――。


 男二人きり。互いに強く惹かれ合う二人。月命の女性的な声が深まった秋風に舞うと、気だるい男のそれが応えた。


「明引呼?」

「あぁ?」


 逆立ちしてお互いを見ているように、ヴァイオレットとアッシュグレーの瞳はまっすぐ絡み合う。誘惑するように白いチャイナドレスがそっとかがみ込むと、二人の顔はマゼンダ色の長い髪で隠れた。

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