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明智さんちの旦那さんたちR  作者: 明智 颯茄
大人の隠れんぼ=妻編=
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妻の愛を勝ち取れ/10

 ――大地のように揺るぎない男。ふわふわと浮いている自分は、この男の絶対不動のお陰で、何の気兼ねもなしにどこへでも自由にいける。そして、迷わず、同じ場所へ戻ってこられる。


 振り返れば、そこに必ずいる。何も言わず、何も望まず、そこにいる。そんなことが何度も繰り返され、妻は夫の愛に気づいたのだ。


 この男は誰かのために自身を犠牲にしてまでも、相手を見守り静かに愛してゆく人なのだと。それがこの男の愛し方なのだと。いきなりの結婚だったが、積み重ねた日々はきちんとあった――


 新しい愛の形に出会えたことを改めて感じて、颯茄は珍しく微笑んだ。約束は約束を果たそうとする。


「愛してます」


 いい感じだったのに、夕霧命は不思議そうな顔をした。


「何があった?」

「えっ!?」


 紺の袴の上で、颯茄の紫のワンピースが驚きでぴょんと飛び上がった。


 光命と一番仲がいい夕霧命。この二人の性格は対照的だ。夕霧命はまっすぐ正直であり、策など絶対に張ってこない。確認するために、わざと質問するなどあり得ない。


 それなのに聞かれてしまって、いくら感覚妻でも、おかしいと気づいた。しかしとにかく、光命の思いやりを無駄にしないためにも、颯茄はさっと真正面を向いて、ものすごくぎこちなくとぼけた。


「なっ、何のことですか?」


 さっきまで大人しく座っていたのに、急に前後に落ち着きなく揺れ出した、嘘が下手な正直な妻。斜め後ろから見ていた夕霧命は、はしばみ色の瞳を細めた。


「言わなくて構わん」


 噓も方便ほうべん。誰かを想ってならいい。自分をごまかすのなら、絶対に許さないが。


 三十八センチの背丈の差で、膝の上に乗ろうとも、まだ高い位置にいる夫。


 和装の色気で武術の技をかけるように、颯茄の唇に少し硬めの夕霧命のそれがすっと触れて、二人のまぶたは閉じられた。


 ――不変的でありながら追求心のあるキス。


 本の匂いに何もかもが混じりこみ、時計の音もなく、二人の呼吸だけがどこまも続いてゆく。袴姿の大きな夫の膝の上に乗ったままの、妻の紫のワンピース。


 だったが、全然隠れていない颯茄と夕霧命。当然すぐに、凛とした澄んだ女性的な声が割って入ってきた。


「見つけましたよ〜」

「あぁっ!」


 颯茄はムードも何もなくさっと立ち上がり、ワンピースのヨレを直して、すうっと瞬間移動した。


 ――今度は夫二人きりの図書室。


 白いソファーの上に座る、和装の色気漂う夕霧命。その真正面に立つ女装している月命。映画の衣装みたいな格好の二人。まるで男女のスパイ同士が対峙するような図柄になった。


「うふふふっ」


 月命が含み笑いをすると、色仕掛けの罠――ハニートラップは発動された。ピンヒールの左足だけをソファーの上へと立てて乗せ、ヴァイオレットの瞳とはしばみ色の瞳はキスができそうなほどの位置へと一気に迫った。


 そんな月命の腕時計は、


 十五時十三分五十八秒――。


 蜜の罠でやれるような、色欲は夕霧命にはない。だが、この男は自分の夫。ここは自宅。完全なる性対象。


 体を重ねたことなど幾度もある。その服の向こうにどんな肌とオトコが待っているのかも知っている。だからこそ、驚くことはない。今日は服がおかしいだけ。


 マゼンダ色の長い髪がサラサラと白いチャイナドレスから落ち、紺の袴の腰前を誘惑するように侵食した。


「くくく……」


 突然噛みしめるように笑い出した、夕霧命の視線は一点集中。スカートの中から見えるパンツがもう一枚だった。


    *


 颯茄は再び戻ってきてしまった、玄関ロビー前の廊下へと。隠れんぼが始まった場所は、正確にはこの奥のにある。


「どうしよう?」


 緑を基調にしたステンドグラスをはめ込んだ、アンティーク調の両開きの扉。


「玄関……」


 ピンクのチューリップみたいな丸みを持つ、シーリングライトが花を咲かせる。一段空高くへ出ている天井を見上げた。


「すごい。空が見える……」


 大きく取られた天窓は、暖色系のライトが温かみと安心感を与える。外から戻ってきた時に最初に広がる自宅の空間。だからこそ、ホッとさせるものをそろえたこだわり。


 両脇から緩いカーブを描く、二階へと続く階段。オレンジ色の絨毯が敷かれ、童話に出てくるお城みたいな造り。


 颯茄は思わず吐息をもらした。


「憧れの間取り……」


 正面に広がる二階の廊下の柵を見つけて、妻は思いついてしまった。


「あぁっ! あれ、やってみたかった!」


 映画の中のアクションをどうしても再現したくなった。よく思い出してみる。


「どうやったらできるんだろう?」


 玄関の扉を真正面にして、ブラウンの髪が家の奥に向いた。


「やっぱり、こう背中を向けて、飛び上がるがカッコいいよね?」


 白黒の市松模様の床の上で、颯茄は神経を研ぎ澄ます。


「イメージイメージ!」


 全てがピタリと脳裏の中で重なり、正義の味方が参上したみたいな掛け声をかけた。


「とうぉぉぉぉっっっ!!!!」

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